フラワーガールは御曹司の一途な愛から離れられない。……なんて私、聞いてない!

1 隣の住人はとんでもセレブ⁉

「今日の式も素敵だったな……」

 結婚式の余韻に浸りながら、私は今日の式で使用したおこぼれの花たちを花瓶に活けた。
 今日はガーデンパーティーだった。
 秋晴れの空の下、白色のバラやラナンキュラス、カスミ草をあしらった参列者席。
 とてもロマンチックに式は進み、新郎新婦にも大変満足していただけた。

 思い出すだけで、頬が勝手に垂れてくる。
 彼らの幸せな門出のお手伝いができたことを、誇りに思う。

 *

 幼いころ、バージンロードを歩いた。
 幸せに笑う、花嫁の前。
 かごに入れた、色とりどりの花びらを蒔きながら、ゆっくりゆっくり歩いた。

 フラワーガール。
 それは、私の初めての晴れ舞台。

 その日のために買ってもらったドレスに身を包み、ちょっとだけお化粧もしてもらった。
 ドキドキして、でも誇らしくて、皆が幸せそうで、私も幸せで。

南戸(なんど)美緒(みお)さん。今日はありがとう」

 王子様みたいな恰好をした新郎にそう言われて、とても嬉しくて。

 こんなふうに、誰かの幸せを作るお手伝いがしたい。
 そう思って、フラワーデザイナーになった。

 今は大手ブライダル企業、ハピエストブライダル社にて働いている。
 お花を使った挙式スタイルの空間デザインや、ウェディングブーケ・ブートニアのデザインを担当しているのだ。

 結婚式という、人生で一度の晴れ舞台。
 それを感動的に仕上げるお手伝いができる今の仕事は、やりがいも感じるし性に合っていると思う。

「次の担当の式は、フラワーガールがいるんだよね」

 私と同じ経験をする、小さな女の子。
 彼女もお花が好きになってくれたらいいな、なんて思いを馳せていたその時。

 ――がらがらがら、がっしゃーん!

「え、何!?」

 聞こえた物音は、誰もいないはずの隣の部屋から。
 私が住んでいるマンションは、隣の部屋だけがずっと空き部屋なのだ。

 もしかして、誰か引っ越してきた?
 だとしたら、初日からすごい騒音なんですけど!

 と、思ったのもつかの間。

 ――ガタン、ドン、ゴンっ!

 鳴りやまない音に、私は怒り半分恐怖半分で隣の部屋に向かった。
< 1 / 38 >

この作品をシェア

pagetop