フラワーガールは御曹司の一途な愛から離れられない。……なんて私、聞いてない!

4 合わない価値観と交わらない未来

 フラワーデザイン部に戻る途中、金井と呼ばれた男性が私に言った。

「驚きました。社長に、あんな風におっしゃる女性がいるなんて」

 彼はふふっと笑う。

「すみません、なんだか熱くなっちゃって……」

「いえいえ、お仕事に対する姿勢、とても素敵だと思いますよ? それに、私の仕事を取られずに済みました」

「え?」

 キョトンとすれば、彼はふふっともう一度笑う。

「そういえば、自己紹介していなかったですね。私、御笠晴臣――社長の秘書をしております、金井と申します。ブライダル業界は社長も私も初めてなので、色々とご教授いただけると幸いです」

 いやいや、もうあなたたちと関わることなんてないと思いますけど。
 ――なんて言えず、あははと苦笑いを浮かべた。

 *

 無事部署に戻ると、さっそく今日の業務に取り組む。
 今度は来週末に行われるウェディングのブーケと会場作りだ。
 既に花は発注済みで、その確認をしながらフラワーデザイン部の段取り表を作っていく。

 明日は顧客のところへ行くので、今日中に仕上げたい。

 そう思い、集中すること数時間。
 パソコン画面上部に、個人メールの通知が表示された。

 新しい依頼かな、なんて思いながら開けば、それは社長からのものだった。

『先ほどは悪かった。
 一度ゆっくり話がしたいと思っている。
 今夜、共に食事などどうだろうか?」

 はぁ⁉

 と思ったのもつかの間。
 そういえば、彼は庶民研修をしているのだと言っていたのだと思い至る。

 もしかしたら、これも庶民の意見を聞こうとして?

 だったら私は、伝えるべきかもしれない。
 私の、仕事への思い。
 それで、彼が何かを得られるなら。

 脳内で葛藤していると、たまたま通りかかった同期の麻衣が私のパソコンを覗いてきた。
 どうやら、引越する同僚に書類を届けに来た帰りらしい。

「何それ、セクハラ?」

「ち、違うよ!」

「ならいいオトコってことだ」

「な……っ!」

 違うとも言い切れない私が悪い。
 麻衣は私のメールを覗き、送り主を見て唖然とした後――

「嘘、何で? どういう関係?」

 と、耳元で私を質問攻めにし、答える間もなく「玉の輿じゃん」と付け加える。

「そういうのじゃないから。それに私、玉の輿なんて望んでないっ!」

 コソコソと言ったのに、麻衣はニヤニヤを抑えてくれない。

「どうせ美緒はいい人いないんだし、こんなお誘いなかなかないよ?」

 言いながら、勝手に返信を打ち込み送信ボタンを押してしまった。

『ぜひ行きたいです!
 私のこと、もっと知ってください!』

 なんて文面を。
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