フラワーガールは御曹司の一途な愛から離れられない。……なんて私、聞いてない!

9 本当の気持ち

「お前たちは、下がってくれ」

 社長がそう言って、周りにいた黒服の男たちがどこかへ散っていく。

 高級料亭の廊下。
 そこから見える、美しい日本庭園。
 そこに、隙の無いスーツ姿の社長と、寝起きのすっぴんジャージ姿の私。

 唐突に訪れた二人きりの空間。
 しかも、互いが想い合っていると気づいている。

 なのに、自分のこの場への釣り合わなさに、ため息をこぼした。

「そんな顔をするな」

 社長は私の頭に、またぽんと大きな手を置く。
 それから、反対の手に持っていた赤いペチュニアを見つめた。

「赤いペチュニア。お前の『決して諦めない』ものはなんだ?」

 社長はそう言って、意地悪く微笑んで私の顔を覗き込んだ。

「……花言葉、ご存知だったんですね」

「ああ、教養としてな。華道も習っていたから。一応、そういう嗜みはある」

「なら、チョコレートコスモスも――」

「ああ。『恋の思い出』とか、『恋の終わり』とか」

 そんな花言葉を社長が口走る。
 それで、もしかしたら社長も私への気持ちを諦めようとしていたのではないかと思い至った。

「そっか、社長も――」

「仕方ないだろう。お前のことを知れば知るほど、自分とは違うことを思い知らされる。だが、お前の芯の強さを知って、そういう強さは俺には新しかった」

 社長はじっと私の目を見つめて続ける。

「いつの間にか、好きなことに懸命な美緒から目が離せなくなっていた。助けたいと思ったから、手助けした。それで、本当に皆の笑顔を、感動を引き出してしまう美緒に心惹かれていたんだ」

「なら、どうして『お詫び』だなんて――」

 言いながら、胸がいっぱいになって涙も溢れてくる。

「仕方ないだろう。俺は一度、お前に求婚を拒否されているからな。気持ちは伝えたい、けれど抑えたくない――だから、お前に花を贈ったんだ」

 ……そうだった。
 私が、社長からの求婚をお断りしたんだった。
 だから、社長は――

「『恋の終わり』を告げるために……、ですか?」

「まあ、そうだな。だが――」

 社長はぐっと私の顔に自分の顔を近づける。

「チョコレートコスモスには、もうひとつ花言葉がある」

「え?」

「『移り変わらぬ気持ち』だ」

「『恋の終わり』じゃ…」

「終わらせたいのか?」

 目の前で、社長が意地悪く笑う。

「そんなことあるわけ――っ!」

 言い返そうとして、それ以上は言えなくなった。
 言葉ごと、社長のキスに飲み込まれてしまったから。
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