義兄と結婚生活を始めます
リビングから出ると、すぐに別の部屋に続くドアが二つある。
玄関での出来事に頭がいっぱいで、あおいは部屋があることに気づかなかった。


「こちらの部屋です。間取り上、僕は隣の部屋になるのですが…希望があればリビングで寝ます」

「そんな…!私は平気です!…大丈夫です…」

「…わかりました」


あおいは、案内された部屋のドアを開けて、中を見た。
自分の部屋とは違う白と青を基調とした内装に、あおいは不思議な感覚になる。
家具もしっかりと揃えられて、必要な物はほとんどいらないのだろうと感じた。
部屋へ一歩足を入れると、和真へ振り返る。


「あの、今日は本当に、姉が…ごめんなさい…」

「問題はありません」

「……ありがとうございます…」


再度、頭を下げるものの、和真は責めることもなかった。
あおいは荷物を受け取ると、部屋のドアを閉める。

閉まる直前に、あおいの表情を見つめる和真。
口を開きかけるものの、何も言葉を発することはなかった。


「…ふー……」


それから、小さく息を吐くあおいは部屋のベッドへ腰を下ろすと、そのまま仰向けになる。
手の近くにあるバッグからスマホを取り出した。
画面を見て、MIENを開くと、未だに既読がつかない姉の安否を気にする。
ふと、あることに気づいて、体を起こした。


「…ちーちゃんに言わなきゃ…」


ちーちゃん…本名を山中千尋と言い、一緒の高校に通うはずだったあおいの友人だ。
和真との結婚は伏せて、別の高校に行くことを伝えよう、そう決意するあおい。


「えー…と、ちーちゃん…ごめんね、親の都合で一緒の高校に行けなくなっちゃった。本当にごめんね……と…」


ポコポコと音を立てた後に、打った文章を読み返す。


「…一緒に通いたかったなぁ…」


そのまま送信ボタンを押して、スマホを閉じようとすると、既読の表示がすぐについた。


ヴー!ヴー!


「わっ」


スマホが震えはじめ、あおいは驚く。
着信相手は千尋だった。

しかし、あおいは電話に出ることをしない。
しばらく鳴り続けるスマホに観念したのか、ようやく出ることにした。


「…もしもし…」

「やっと出た!あおい!?何あのメッセージ!何があったの?」

「えーと…そのままだよ。親の仕事の都合で、別の高校になったの…ごめんね」


大切な友人に嘘をつくことに対して、後ろめたさを感じるあおいだが、和真とのことを言うわけにはいかない…。


「…それ本当?」


千尋の言葉に、あおいは身構えるように背筋がピンとなった。


「本当だよ!ちーちゃんと一緒に学校通いたかった…!」

「私もだよ!!ね、本当にどうにもならないの?あおい、あんなに勉強頑張ってたのに…!」

「…無理だよ…決まっちゃったんだもん…」


あおいは力なく答え、千尋が諦めてくれるのを待った。

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