義弟の恋人
「でも・・・」

「ん?」

「どうして私があの喫茶店にいること、わかったの?」

私が片手を頬に当てながら、首を傾げた。

「奈美子さんから電話があった。」

「奈美子さんが?」

あんなに私にキツく当たっていた奈美子さんが?

私に言ったことは本気じゃなかったってこと?

「ああ。奈美子さんから全部聞いた。皐月と奈美子さんが話した内容も、皐月が俺を守ってくれようとしたことも、全部。」

「・・・・・・。」

「俺と奈美子さんは皐月が思っているような仲じゃないよ。」

「え?」

「俺はあの人の愚痴をただ聞いていただけだ。」

「愚痴・・・?」

「そう。会社の上司がムカつくとか、同僚の男が使えないとか・・・そんな話を延々と聞かされて、俺はただそれを黙って聞いてただけ。あとは街を歩いて一緒に食事したりはしたけど。」

「・・・本当に?」

「ああ。信じてくれるか?」

「うん。」

私は大きく頷いた。

・・・でも、それは嘘だとわかっていた。

廉が私につく優しい嘘。

それでもいい。

廉をもう2度と奈美子さんに渡さない。

「奈美子さんに言われた。もう廉君は必要ないから解放してあげる。いままでごめんなさいって。」

「・・・よかった。」

私がそうつぶやくと、廉はいきなり私をふわりと抱きしめた。

「皐月、ありがとな。俺を守ってくれて。」

「ううん。」

私は首を横に振りながら、廉の背中にまわす腕の力を強めた。

「俺・・・本当は怖かった。いつまでこんなこと続けなきゃならないんだろうって。心のどこかで誰かの助けを待ってた。」

「うん。・・・廉・・・ずっと辛かったね。よく頑張ったね。」

私は廉の大きな背中を優しく撫でた。


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