真白に包まれて眠りたい
31.通勤2時間の生活

 6時に起きて、6時半に家を出て、8時半に会社に着く。17時に会社を出て、19時に帰宅して、23時に寝る。この生活を半年ほど。
 1時間の電車通勤は意外に悪いものではなかった。座っていられるし、乗換の待ち時間も少ない。父からもらったAirPodsで好きなだけYouTubeや映画を観る。むしろ、初めの頃は、今日は何の映画を観ようか、と楽しみにしていた。だがそれも束の間。そのうち、何もせずに一時間を過ごす日が増えた。窓の外を眺め、気づけば降りる駅。ぼーっとしていたのか、ずっと考え事をしていたのかわからない。だけど、数十駅があっという間に思えた。そして読書。秋頃からは読書を覚えた。彼の家で彼が寝ている間の暇つぶしに本屋に行って出会った本をきっかけに、本を読むようになった。小説ではなく、エッセイや自己啓発の類。そしてたまに資格の本。家に帰って他の娯楽がある中で本を手に取ろうとは思えなかった。だから、通勤電車がちょうどいい。
 毎日、このサイクルを回せるのならよかった。だが、やはりたまに残業というものがある。残業すれば電車の乗換タイミングもずれ、帰るのがより一層遅くなる。1時間の残業で、普段より1時間半帰宅が遅くなったりする。残業をすれば途端に自由時間は無くなり、帰って、ご飯を食べて、シャワーを浴びて、寝るだけ。こういう日は、通勤2時間を恨んでいた。
 だが通勤2時間の生活は今週で終了する。結局、時間が欲しかった。今やりたいことを見つけてしまったからだ。もし見つけていなかったら、ずっと実家から通っていただろう。それと、一人で生きられる確証を持つこと、ひとりで生きていかねばならない危機感を持つこと、これも理由だ。
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