人気イケメンダンスグループのボーカル担当『天野先輩』に溺愛されました。
 ちょうど先輩の胸の辺りに私の耳がある。自分の心臓の音がざわめいているのを感じる。同時にもうひとつの心臓の音も。

 トクントクン。

 流れてくる先輩の心臓の音。
 ずっとこのまま先輩の優しい心臓の音を聴いていたい。

 だけど菌が……。

「先輩、よろけてごめんなさい」

 そう言って離れようとした瞬間、先輩はぎゅっと強く抱きしめてきた。胸元から離れることが出来ないままで、ずっと先輩の心臓の音が聞こえている。

 先輩は小顔で、グループのみんなの身長が高いから一見、小柄のように思える。

 けれど実際は180cmもある。
 私の身長は155cmで差は25cm。

 完全に包まれている状態。

「あのちゃん、お願いがあるんだけど」

 ちょっとずつ先輩の心臓の音が早くなってきている気がする。もちろん私の心臓の音も。

「卒業まで、右腕怪我したままでいてくれない?」 

 私の右腕が怪我したまま?
 ということは――。

 先輩の言葉を解読しようとした時、私の頭に先輩の口が優しく触れた気がした。


< 34 / 41 >

この作品をシェア

pagetop