恋は秘密のその先に
第七章 鬼軍曹のヤキモチ
「それでは本日のご予定を報告させて頂きます」

いつもの業務連絡で一日が始まる。

「10時よりシステム開発部とのミーティング、13時からは横浜支社で上層部と会談、その後取り引き先を訪問して…」

今日も長い一日になるな、と思いながら真里亜はタブレットを確認する。

「…本日は以上です」
「分かった」

副社長が返事をして、真里亜もタブレットを閉じる。

すると、ふと住谷が真里亜を振り返った。

「真里亜ちゃん」
「は、はいっ!」
「秘書課の共有フォルダって、真里亜ちゃんもアクセス出来る?」
「いえ、私は権限がないみたいで」
「だよね。今、設定するから、パソコン借りるね」

そう言って真里亜のデスクまで来ると、身をかがめてパソコンを操作する。

「あの、どうぞ座ってください」

真里亜が立ち上がって席を譲るが、んー、大丈夫、と住谷は立ったままだ。

「いえ、あの。本当に座ってください。住谷さん、背が高いからやりづらいでしょう?」
「そうだなー。じゃあソファでやろうか。真里亜ちゃんにも説明したいし」
「え、あ、はい」

仕方なくパソコンを持ってソファに移動する。

「よし。これで真里亜ちゃんもメンバーになったから、いつでもこのフォルダ見られるよ。あとこのアプリからは会議室の予約状況や、共有したい資料、秘書課のメンバーの予定も分かる。毎日ここをチェックしてもらえると、仕事もやりやすくなると思うよ」
「はい、ありがとうございます。会議室の予約も、今後は私がやった方がよろしいでしょうか?」
「んー、いや、しばらくはこのまま俺がやるよ。でも、いずれは真里亜ちゃんにもお願いしたいな。長く続けてもらえるんでしょ?」
「あ、う、まあ、はい」

副社長の手前、自分は探りを入れに来た腰掛けだとは言えず、うやむやに頷く。

「良かった!頼りにしてるよ。これからもよろしくね、真里亜ちゃん」

住谷は真里亜ににっこりと微笑む。
が、その斜め後ろから、副社長の突き刺すような視線を感じて、真里亜は引きつった笑みを浮かべた。

「じゃあ、他のファイルも一緒に見てみる?分からないところは説明するよ」
「いえ!あの、あとは一人で大丈夫です」
「そう?」
「はい。ありがとうございました、住谷さん」

それでは、私は会議室の準備に行って参ります!と、真里亜はそそくさと副社長室を出た。
< 42 / 172 >

この作品をシェア

pagetop