恋は秘密のその先に
 コンペの準備は大詰めを迎えていた。

「この資料に色を加えて見やすくしておいてくれ。あと、図も分かりやすく大きめに」
「かしこまりました」

 真里亜は共有フォルダから、文哉がラフに作った資料を開いて、仕上げの作業をしていく。

 コンペでは、実際にAMAGIが自社ビルに導入している独自のセキュリティシステムをプレゼンする予定だった。

 10年前から導入し、少しずつ改良を加えてきたこのシステムで、これまでトラブルなく社員の安全と会社の機密事項を守ってきた実績を強調する。

 ビル内は、たとえ来客者でも受け付けで手続きをして、セキュリティカードを受け取らなければ入れない。
 来客者用のセキュリティカードは、社員と落ち合うロビーに入る為だけのものだ。
 会議室などへは、社員と一緒でなければ入れないようになっている。

 そしてもちろん、社員も全員がIDカードをかざしてセキュリティゲートを通るシステムなのだが、そのカードさえあればどの部屋にも入れる訳ではない。

 ビル内は、セキュリティのフェーズによって、主に3つのゾーンに分けられている。

 まずはほとんどの社員が働くエリア、ブルーゾーン。
 社員の約80%が、このブルーゾーンのみの入出権限を与えられている。

 続いては、機密事項を扱うエンジニアやプログラマー、そして役員達のオフィスがあるイエローゾーン。
 このエリアは、エレベーターのボタンもIDカードをかざさなければ押す事は出来ない。
 フロアのあちこちに防犯カメラも多く設置され、IDカードが使われる度に警備室の端末に名前と顔写真が大きく表示される。
 警備員は、その名前と防犯カメラの映像を見ながら、24時間常にモニタリングしている。
 更に、エンジニア達が作業する部屋は、顔認証と指紋認証も導入されていた。

そして最も警備が厳重なのが、レッドゾーン。
社長、副社長のいるフロアだった。
ここももちろん顔認証と指紋認証が必要で、社長室は社長と社長秘書、副社長室は文哉と真里亜、住谷がそれぞれ顔と指紋を登録していた。
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