恋は秘密のその先に
 コンピュータや通信機器、OA機器関連業界のトップ企業であるAMAGIコーポレーションに入社して、真里亜は今年で3年目になる。

 IT関連にも事業を広げており、時代の最先端をゆく技術を開発していることもあって、経営陣も若手が多い。

 副社長の天城(あまぎ) 文哉は社長の長男で、仕事はバリバリこなし容姿端麗。

 もちろん女性社員からも熱い視線を集めているが、身近に彼と接する人達からの評判は悪かった。

「遅い」

 副社長室のドアをノックし、失礼いたしますと頭を下げて入った途端に、不機嫌な声が飛んでくる。

「おはようございます」

 まずは挨拶から、と真里亜がにこやかに笑ってお辞儀をすると、何をしていた?と無愛想に返された。

 しかも一瞥もくれない。

 (一応、入って来たのが私だってことは分かってるのよね?)

 そう思いつつ、もう一度
「副社長、おはようございます」
 と、やたらゆっくり丁寧に頭を下げてみる。

「何をしていて遅れたのかと聞いている」

 返ってきたのは、またもやパソコンに目を落としたままの冷たい言葉。

「副社長。幼稚園には通っていらっしゃいましたか?」
「はあ?」

 ようやくパソコンから顔を上げてこちらを見た。

「副社長は確か、慶友大学付属幼稚舎のご出身ですよね? 朝のご挨拶はお忘れで?ほら! 皆さーん、おはようございまーす」

 そう言って、右手を耳元に持っていき返事を促す。

「ごきげんようだ」
「……は?」
「挨拶は全て、ごきげんよう」
「な、なるほど。さすがはいいとこのボンボンですね。へえ、今どき本当にごきげんようなんて使うんだ」

 真里亜が妙に感心していると、副社長はチラリと腕時計に目を落とした。

「……45秒」
「は?」
「お前のくだらない話に45秒つき合わされた。借りは返せ。早く仕事をしろ」

 はあ……、と真里亜は露骨にため息をつく。

「かしこまりました」

 諦めてうやうやしく頭を下げると、自分の席に鞄を置いてから隣接する給湯室に向かった。
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