大学生をレンタルしてみた
部屋
大学から駅まで、駅から家まで、バスを乗り継いで向かう。住宅街を走るこのバスの中はかなり空いている。

二人掛けの椅子に並んで座ると、晴人は体があたるように距離を詰めてきた。
思わず晴人を見上げたら、彼も私を見てきて目が合う。

薄暗い車内、光の少ない道を走り続ける。

膝の上のバッグを抑えていた左手を、晴人が取ってその上に手を重ねてきた。

「なんで今日俺のこと呼んだんですか」
「暇かなあって思って」
「暇かなあって思って、か」

私は窓の外を見る。細い住宅街を抜け駅前の大通りに出ると、やっと明かりが増える。飲食店はまだやってるし、人も一気に増える。

「何か買っていきましょ」と隣で晴人が言う。

「飯食べました?」
「まだ」

ぽつりぽつりと話すけど、会話の内容よりも重なった左手に意識が集中して続かない。

私はこういうことにドキドキするけど、晴人はどうなんだろう。慣れてるんだろうか。

窓の外から彼に視線を移すと、不意に目が合った。

「お腹空いた」

私は恥ずかしくなって意味のない言葉を口にする。

「じゃあ5,000円の中で奢ります」
「4,000円くらいのご飯買って」
「やだ」

私たちを乗せたバスは駅前に到着した。
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