この結婚が間違っているとわかってる
***
「――知ってたよ、全部」
咲の不倫現場を目撃した翌日。伊織は仕事終わりに拓海を誘い出したカフェでその真実を打ち明けた。
けれど拓海は驚く様子もなく、すべてを知っていたと力なく答えた。
「知ってたってどういうことだよ」
伊織が尋ねると拓海はゆっくりと話し始めた。
拓海が咲と結婚をしたのは取引先の社長に紹介されて断れなかったからだ。咲のことは結婚生活を続けていくうちに好きになれるだろうと思ったし、咲と結婚したことで拓海は出世をすることができた。だからこの結婚も悪くないと思っていた。
でもある日、咲が男と親しく歩いている姿を目撃する。拓海はすぐに咲に問い詰めた。すると彼女はあっさりと不倫の事実を認めた。
咲と親しくしていた男――倉橋は咲の高校時代の同級生で元恋人だ。ふたりは将来を誓い合っていたがお互いの家の都合で結ばれることはなかった。
というのも咲の実家が経営している会社と倉橋の叔父が社長を務める会社がライバル関係にあるからだ。