この結婚が間違っているとわかってる
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結婚しようと言ったのは伊織だった。
半年前、伊織の四つ上の兄――拓海の結婚パーティーでの出来事だ。
ふたりとは幼馴染の小花も招待されたそのパーティーはレストランを貸し切って開かれたアットホームなもの。
拓海たちはすでに海外で挙式と披露宴を終えているため、同僚や友人など親しい人を中心に招待されていた。
立食形式で行われているので参加者は自由に移動しながら食事や歓談を楽しむことができる。
拓海と、拓海の妻の咲を祝うため最初のうちは笑顔で参加していた小花だけど、次第に作り笑いがつらくなって会場の隅に逃げた。
壁に背中をつけてよりかかりながら参加者たちに祝福される拓海たちの様子を遠くからぼんやりと眺めていたときだ。
『――おい。今のお前の顔すげぇブスだぞ』
気配もなく突然現れて暴言を吐いてきたのが伊織だった。
(誰がブスよ!)
小花は言い返そうとして伊織に鋭い視線を向ける。すると顔にハンカチを押し当てられた。
『とりあえず涙拭け。みっともないから』
伊織に言われて初めて自分が泣いているのだと小花は気付いた。黙ってハンカチを受け取り、瞳にじんわりと溜まる涙を拭う。