岩泉誠太郎の恋

彼女との未来のために

「誠太郎の恋の手助けができるなんて、本当胸アツだわー」

「胸アツって、、宗次郎さん、言葉のチョイスがさりげなく古いな」

「啓介、お前ちょっと黙ってろよ」

従兄弟の宗次郎さんと啓介はあまり接点がないはずだが、昔から妙に仲がいい。いつも言い合いをしてるが、多分仲がいい。

「詳細はこの前電話で話した通りです。とりあえず小出先生に安田さんの紹介をお願いする感じで。逆指名なことはあくまで伏せてもらうのを忘れずにお願いします」

「オッケーオッケー。まかせといて。さくっと行ってくるわ」

そう言って先生の元へと向かった宗次郎さんの背中を見送る。

久し振りに会った宗次郎さんのあまりに軽いノリに、少々不安を覚えた。彼女の就職が決まれば、啓介よりも宗次郎さんに頼る機会が増えるはずだが、本当に大丈夫だろうか。

「それにしても、誠太郎の親父さんも、結構酷だよなー。3年で成果出さなきゃスタートラインにすら立たせないってことでしょ?勝算はあるの?」

「わからないけど、やるしかないだろ?見積もりが甘かった上に、詰めも甘くて、挙げ句の果てに切り札の出しどころまで間違えた。完全に俺の落ち度だ、しょうがないよ」

「親父さん、容赦ないなー」

「でも逆に言えば、この条件をクリアすれば結婚は認めてもらいやすくなると思う」

「結婚かー。道のりは長そうだなー」

その後危うい場面はあったものの、どうにか彼女を三角エネルギーに就職させることに成功し、とりあえず第一関門は突破した。

ここからは俺がひたすら努力するしかない。

とりあえず、入手可能な業務資料を片っ端から読み漁ることから始めていたが、とにかく数が多過ぎる。新卒の俺が3年で成果を出す為にできることはなかなか見えてこなかった。視点が狭くなっている気もする。焦っては駄目だ。

実際に働いてみないとわからないことも多いはずだし、一度視点を変えるのもいいだろう。そう考えて、無駄になることがなさそうなデータ分析やAIの勉強を始めてみた。これがなかなか面白く、仕事としてやりがいのありそうな内容だったので、役立ちそうないくつかの資格を取ることにした。

データ分析という新しい視点を踏まえた上で資料を見直せば、何か見えてくるものがありそうだ。やっと光明が差したのかもしれない。
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