アンハッピー・ウエディング〜後編〜
秋立つ頃の章4
寿々花さんじゃないけどさぁ。

玄関に蹲って、しばらく落ち込んでいたい気分だよ。

「はぁー…」

家に帰ってからというもの、ぐったりと疲れた俺は。

リビングのテーブルに突っ伏して、巨大な溜め息を連発していた。

…あー、辛い。

何だって俺がこんな不幸な目に…。なんて、今に始まったことじゃないような気もするが。

すると。

「…悠理君が落ち込んでる…。可哀想…」

深々と溜め息をつく俺を見て、寿々花さんが心配そうな顔で寄ってきた。

「元気出して、悠理君。はい、これ私のうんまい棒あげるから」

「お、おう…」

寿々花さんが駄菓子を差し出してきた。

うんまい棒一本じゃ、とても割に合わない役目を背負わされたが。

でも、俺を心配してくれる寿々花さんの、その気持ちだけは有り難い。

「美味しいよ。食べたらきっと元気出るよ」

「あ、ありが…」

「お豆腐味のうんまい棒だよ」

「…豆腐…!?」

そんな味あんの?

パッケージをよく見たら、本当に「おとうふ味」って書いてあった。

マジかよ。

うんまい棒だったら、俺コンポタ味が好きだったんだけど。

まぁいっか。寿々花さんが折角くれたんだから。

有り難く食べるよ。

初めてのうんまい棒お豆腐味は、本当に豆腐の味がしてびっくりした。

…意外とイケるな。

って、うんまい棒の食レポしてる場合じゃないんだよ。

「…はぁ。悩んでても仕方ない…。そろそろ夕飯の支度をするか…」

「大丈夫?悠理君。何か悲しいことがあったの?」

立ち上がりかけた俺に、寿々花さんが声をかけてきた。

悲しいこと?…あったよ。

物凄く悲しかったね。何せ女装の生け贄に選ばれたんだから。

「よしよしってしてあげようか?元気が出るかも。よしよし、悠理君は良い子だねー」

子供にするかのように、俺の頭をよしよし、と撫でてくれた。

寿々花さんの優しさを感じる。

「誰かが悠理君を泣かせたの?」

「いや、別に泣いてはいないけど…」

「そんな悪い子がいたら、私が、えいってしてあげるから連れてきて。悠理君みたいな良い子を悲しませるような人は、悪い子に決まってるもん」

…何?その理屈。

でも、別にこれは誰が悪い訳でもないから。

「誰も悪くねーよ。…強いて言うなら…悪いのは俺だよ」

「悠理君は悪くないよ?」

「悪いよ。…俺の運がな」

全ては、俺の運の無さが原因。

「…運…?」

寿々花さんは、きょとん、と首を傾げた。

…えーと。これ言っちゃって良いんだろうか。

…一応言っとくか。万が一、寿々花さんがコンテスト当日に俺の女装姿を見て。

色んな誤解が生まれてしまった挙げ句、俺には女装趣味があると言い触らされるようにことになったら…。

…その時は、さすがの俺も本気で泣きそうだから。
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