アンハッピー・ウエディング〜後編〜
そして、迎えた翌日の土曜日。

寿々花さんが帰ってくる日である。





…その日は、何故かいつもより二時間近くも早く目が覚めた。

あまりにも早い。

もう一回寝よう…と思ったのだが。

…寿々花さんは今頃、飛行機の中だろうな、とか。

ホテルに忘れ物とかしてないだろうな、とか。

出入国の手続きは、滞りなく済ませたんだろうか、とか。

空港に迎えに行った方が良いんだろうか、とか。

とにかく、頭の中に余計な雑念が浮かんでは消えていく。

とてもじゃないけど、二度寝するどころではなかった。

むしろ、寝ようとすればするほどに頭の中が冴え渡っていく。

こうなったら…もう、二度寝は無理だ。

仕方なく、俺はいつもより随分早い時間に起きた。

…まぁ良いか。早起きは三文の徳って言うし。

折角早く起きたんだから、家の掃除でもしよう。

そう思って、俺は掃除機と雑巾を持って、家中の掃除を始めた。

寿々花さんが旅行に行っている間、俺は何度も「寿々花さんがいない間に大掃除をしよう」と思ったものだが。

結局、今日に至るまで出来なかった。

最初の数日は、寿々花さんが居ないことで、ついでに俺のやる気もなくなってて。

ぼーっと、腑抜けみたいに過ごしたものだ。

で、週明けの平日は…つまり、今週の月曜日以降の話だが。

月曜日はマラソン大会で疲れてて、家事どころじゃなかったし。

火曜日は筋肉痛が酷いし、討論会なんかやらされて余計疲れたし。

水曜日はなんちゃってイタリアンの調理実習をやって、散々駄目出しされたし。

おまけに、月曜のマラソン大会の後遺症…という名の筋肉痛が長引いて。

結局、木曜日くらいまで、身体の何処かが痛かったよ。

慣れてない素人が、いきなり20キロも走るもんじゃない。当たり前だけど。

とにかく、色々な理由があったせいで。

結局俺は、一度も大掃除をする機会がなかった。

それなのに、寿々花さんが帰ってくる今日という日。

この一週間でいつになく、自然と身体が動く。

あと○時間くらいしたら帰ってくる、と思うと…自然と足が軽いって言うか。

つまり乙無が言うところの、「浮かれている」状態だったんだと思う。

…俺としては、全然自覚なかったんだけどな。

いつも掃除をする時は、「面倒臭いなー」と思いながらするものだが。

今日だけは、下手くそな鼻歌交じりで大掃除を敢行。

溜まってた洗濯物も、全部片付いた。

何だろう。無駄に気分が晴れやか。

何だかじっとしていられなくて、そのまま庭の草むしりまで始めてしまった。

…寿々花さん、そろそろ日本に着いた頃かな?

あと何時間かしたら、この家に戻ってきているのだ。

やっぱり、何だか実感が湧かない…けど、心が浮足立つような気分だった。
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