アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「…何だよ。なんか文句でもあるのか?」

言いたいことがあるなら、はっきり言えよ。

「あ、なんだ。今日は聞こえてんのか…」

今日はって何だよ。前も言ってたのか?

「別に。悠理さんがあまりにも浮かれているから、呆れているだけです」

と、乙無。

ぎくっ…。

「う…浮かれてなんかねぇよ。授業がいつも通りに戻ったから、それで安心してるだけだ」

それは、あんたらだってそうだろうが。

「ふーん?それだけにしちゃ…。…今日はやけに豪華なお弁当じゃん?」

雛堂は、俺の弁当箱を覗き見して言った。

べ、別にそんなことは。

「ふ…普通だろ。いつも通りだよ」

「へぇぇ?この、めっちゃ美味しそうな肉団子が普通、ねぇ?」

「あ、おいコラ」

手癖の悪い雛堂が、俺の弁当箱から肉団子を一個、摘まみ食い。

寿々花さんのイタリア土産のバルサミコ酢を使って、甘酢あんかけ風にしてみた。

力作のミートボール弁当である。

「なんっじゃこれ。うんまっ!」

これには、雛堂もびっくり。

だろ?バルサミコ酢のお陰だな。

「こんなめっちゃ美味いお弁当を作るなんて…!やっぱり浮かれてんじゃねぇか」

「な、何でミートボールくらいで浮かれてることになるんだよ?」

「だって先週の悠理兄さんの弁当、めっちゃ手抜きだったじゃん」

ぎくっ…。

「…よく覚えてんな。そんなこと」

一人分しか作らなくて良いと思うと、弁当作るのが面倒臭くて。

先週一週間は、我ながら酷い手抜き弁当だった。

「そりゃ覚えてるだろ。いつもはそれなりに手の込んだ弁当を持ってきてるのに…」

「先週のお弁当は、ほぼ冷凍食品弁当でしたもんね」

乙無まで。

「べ、別に…い、いつも通り…」

「今日からは寿々花さんの分もお弁当を作るから、途端にやる気になったんでしょう」

ぎくっ…。

バレてる。何もかもがバレてる。

「おまけに、いつもは付いてないものまでついてんぞ。何だよ、このお洒落なスープジャーは」

と言って、雛堂は俺の持ってきたスープジャーを指差した。

そう。いつもはスープジャーなんて持ってこないのだけど、今日はちょっと…その。

いつもより、ちょっとだけ。ちょっとだけやる気が出たから…。

「…クリームシチュー作ってきたんだ。今日…」

「クリームシチュー!手作りミートボール弁当に、クリームシチュー付き!めちゃくちゃ浮かれてんじゃねーか」

「現金な人って言うか…分かりやすい人ですね、悠理さんって」

何だよ。その言い方。

「しかも、めっちゃ美味いぞこれ」

あろうことか、雛堂は勝手に俺のクリームシチューを摘まみ食いしていた。

「べ、別に良いだろ。今日はちょっと…早起きしただけだよ!ってか、食うなよ!」

「はー。自分も、こんな美味しい弁当作ってくれる恋人が欲しいなー。この際相手が男でも些事なことだよ」

「大事だよそれは」

何を言ってんだよ。あんたは。マジで。

つーか、スープジャー返せ。
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