アンハッピー・ウエディング〜後編〜
息白む頃の章1
―――――クリスマスが終わると、いよいよ年末である。

クリスマスの翌日、つまり12月の26日に、俺と寿々花さんは名残惜しみながらクリスマスツリーを片付けた。

家中に飾っていたクリスマスグッズ、スノードームやクリスマスリースも全部。

寿々花さんは超残念がっていたけど、クリスマスが終わったらお役目御免だからな。

ずーんと沈み込む寿々花さんを宥め、すかし、「でも来年になったらまた出せるからな」と言い聞かせ。

好物のオムライスと、それから…。

「…どうだ?美味いか、それ」

「うん。美味しいよ」

「そうか…。…良かった」

二日前、寿々花さんが円城寺とバレエを観に行っている間。

イライラ解消と暇潰しの為に作った、チョコチップ入りのクッキーを、おやつとして寿々花さんに出してあげたところ。

これがまた、大層気に入ってくれた。

本当は昨日食べたかったんだけど、昨日はスイーツビュッフェのせいでお腹いっぱいだったし。

それに、美味しいスイーツビュッフェを食べた後に、俺の手作りクッキーなんか食べたら。

高級和牛ステーキの後に、輪ゴム食べてるようなもんだろ。

あまりの落差に、口の中がパニックを起こすかと思ってな。

密閉容器に入れて保存しておいたんだ。

「美味しいね。これ美味しいね。悠理君は何でも作るの上手だねー」

と言いながら、寿々花さんは夢中でクッキーをぱくついていた。

そうか。それはありがとうな。

…言えない。

そのクッキー、実はホットケーキミックスに卵とチョコチップを混ぜただけの、超簡単手抜きクッキーだよ。なんて。

こんなに喜んでくれるなら、もっと手間かけて作れば良かったかな…。

「あのね、昨日食べたビュッフェのアイスクリームよりずっと美味しい」

「それは言い過ぎだ」

その手抜きクッキーと、高級レストランのスイーツビュッフェを比べるんじゃない。

申し訳なくなるだろ。

お世辞で言ってるんならまだしも、寿々花さんの顔は至って真剣だった。

干し柿で喜ぶわ、手抜きクッキーで喜ぶわ…。

この人、味覚どうかしてるんじゃねぇの…。

とはいえ、クリスマスツリーを片付けてからというもの、かなり落ち込んでいたからな。

好物とおやつで機嫌が直ったのなら、良かっ…。

「折角だから、ツリーを見ながら食べっ…。…あっ…」

寿々花さんはくるりと振り返って、今朝までクリスマスツリーが置いてあった場所を向いたが。

そこには既に、クリスマスツリーはない。

…寿々花さん、この一ヶ月、お絵描きもおままごともホラー映画もそっちのけで、ずーっとクリスマスツリーに夢中だったからな。

ツリーを眺めるのが、完全に癖になってしまっている。

「…」

そこにはもう、クリスマスツリーがないことを思い出したのか。

寿々花さんはまたしても、ずーん、と沈み込んでしまった。

あぁ…やっぱり駄目だったか。

クッキーで機嫌直しをするはずが、むしろ余計にへこませてしまって申し訳ない。

これは…早急に、何とかした方が良さそうだ。
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