【短】「花火を背にした少女」
 無理やり絵を描いても、駄作しか生まれなかった。



 このまま、俺は二度と絵が描けなくなるのか?

 そう思うと、ゾッとする。


 歌月理(うつり)の期待に満ちた目からも逃げたくて。




「どうしてなんだ…」




 筆もパレットも置いて、くしゃっと髪を掴む。

 頭を抱える。

 ため息だけが絞り出される。


 絵を描くことが、苦痛だ。

 新作を期待する周りの目に、吐き気がもよおす。

 今の自分にがっかりして、今まで俺の絵を賞賛していた人が離れていくことが恐ろしい。



 見せられない。なら、隠し通す。

 でも、調子が戻る日は来るのか…?




 ティロン♪


「…歌月理(うつり)…?」




 ベッドの上に置きっ放しだったスマホを見て、手を伸ばす。

 画面に表示された通知には、[私の芸術、描くから。家に来て]とシンプルなメッセージが書かれていた。
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