婚約破棄された者同士、円満に契約結婚いたしましょう。

15.父との軋轢(モブ視点)

 父親であるザルパード子爵に呼び出されたガラルトは、不機嫌そうな顔をしていた。
 その表情の理由は、父親から言われたことにある。ザルパード子爵は、ガラルトとロナメアの婚約を破談にしたいと言ってきたのだ。

「父上、僕はあなたが何を考えているのかがまったくもって理解できません。何故、ロナメアとの婚約を破談にするのです。彼女は、セントラス伯爵家の令嬢ですよ。これは父上にとっても、いい話ではありませんか」

 ガラルトは、自らの行動がザルパード子爵家の利益にも繋がると思っていた。
 自分より地位が上の貴族との婚約、それをもたらしたことに感謝されると思い込んでいた彼にとって、父親の言葉は信じられないものだったのだ。

「ガラルトよ。セントラス伯爵は曲者だ。あの男が、このザルパード子爵家に入り込めば、この家が取り込まれかねない」
「……どういうことですか?」
「傀儡にされると言っているのだ。あの男は、我々に利益をもたらしてはくれない。吸い取るだけ吸い取って、いらなくなったら切り捨てるつもりだ」

 ザルパード子爵は、セントラス伯爵をかなり警戒していた。
 この婚約が成立したら、自分の地位が失われるとさえ、子爵は思っていた。彼は心のどこかで、伯爵に勝てないと感じていたのだ。
 しかし、それはガラルトにとっては理解できないことだった。傀儡にされる。自信なさげにそういう父に、彼は失望さえ感じていた。

「父上、情けないことを言わないでください。僕はロナメアのことを愛していますが、このザルパード子爵家の次期当主です。それは弁えている。セントラス伯爵家の好きにさせるつもりはありません。あくまで、ギブアンドテイクの関係にしてみせますよ」
「お前如きに、そんなことができる訳がなかろう。言っておくが、お前は既に一つの婚約を駄目にしたのだぞ? 我々にとって重要な信頼を失わせたのだ。それがどれだけ愚かな行為であるかもわかっていないくせに、知ったような口を聞くんじゃない!」
「なんと……」

 父親からの叱責に、ガラルトは露骨に機嫌を悪くしていた。
 情けなく弱い父親、彼の中でザルパード子爵の評価は一気に落ちていった。
 これからは、やはり自分がザルパード子爵家を引っ張っていかなければならない。ガラルトの中では、そのような結論が出ていた。

「父上、知ったような口を聞いているのはあなたの方です。僕はこれでも、自分は優秀であると自負しています。この婚約で、ザルパード子爵家に多大な利益をもたらしてみせますよ」
「ま、待て……」

 父親からの制止も聞かず、ガラルトは部屋から出て行った。
 彼は、本当に信じていたのだ。この婚約は、ザルパード子爵家にとっても素晴らしいものであると。
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