婚約破棄された者同士、円満に契約結婚いたしましょう。

18.称賛の言葉

「……ラルード様は、とても素敵な方だと思っています。彼は紳士的で、可愛らしい笑顔をする人ですからね」
「可愛らしい笑顔ですか?」
「ええ、なんというか、彼を見ていると安心することができます」

 私は、ゆっくりとラルード様に対する印象を述べていった。
 そういう風に彼に対する考えをまとめたことは、今までなかった。故になんというか、私の気持ちも同時に整理できているような気がする。

「出会い方は少々特殊でしたが、良き婚約者に巡り会えたと思っています。ただ、少し気になるのは私がそんな彼に相応しいのかということですね……」
「え? それは、どういうことですか?」
「そもそもの話、私は皆様よりも地位が低い子爵家の令嬢です。以前婚約されていた方は伯爵家の令嬢でしたし、家柄的に問題があるかもしれないと思います。それに人間的にもそうです。私は、彼程に立派ではありませんから」

 今の私の素直な気持ちは、大体そんな感じだった。
 私はラルード様に、好感を抱いている。ただ同時に、劣等感のようなものも抱いているのかもしれない。
 彼に相応しい人間、私はそれに該当するのだろうか。なんというか、少々自信がない。立派な彼と私は釣り合っていないような気がしてしまうのだ。

「……そんなことはありませんよ」
「……え?」
「僕はあなたが言う程に立派な人間ではありません。そしてあなたは、あなたが思っている以上に立派な人です」

 そこで、私はかなり驚くことになってしまった。
 部屋のカーテンの中から、一人の男性が現れたからだ。
 その男性は、間違いなくラルード様である。どうやら彼は、先程までの会話を聞いていたらしい。

「すみません。盗み聞きしてしまって……」
「申し訳ありません。これは私が提案したことで……」
「……いいえ、大丈夫です」

 ラルード様とルメティアは、ほぼ同時に謝罪してきた。
 私はその言葉を止める。少し驚いたが、別に怒るようなことではないと思ったからだ。
 ちなみにリーンは、一人だけ驚いた表情で固まっている。どうやら、彼は今回のことを何も知らされていなかったらしい。

「ラルード様、先程の言葉は嬉しく思います。でも、やっぱり私はそこまで自信が持てません」
「……それは僕も同じですよ。僕はあなたに言われる程立派な人間ではない」
「……それなら、お互い様という訳ですか?」
「ええ、そうなりますね……」

 私とラルード様は、そこで笑い合った。
 私達は、お互いのことを高く評価している。だがその評価に、お互いに追いつけていないらしい。

「ラルード様、改めてこれからどうぞよろしくお願いします」
「……いえ、こちらこそよろしくお願いします」

 そこで私は、改めてラルード様に挨拶をした。
 彼となら幸福な結婚生活を歩める。私はそれを改めて認識するのだった。
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