婚約破棄された者同士、円満に契約結婚いたしましょう。

28.これからの時間を

「正直な所、少し驚いています」
「そう……そうね。きっと、そういうものなのでしょうね?」
「ああ、わからないものだよ。きっと、そういうことは……」

 ピクニックから帰って来て、イグルとウェレナは泣きつかれたのか眠ってしまった。
 そんな二人がぐっすりと眠っていることを確認してから、私はお父様とお母様に何があったのかを報告していた。
 二人は、それ程驚いていない。ということは、イグルとウェレナの悩みをなんとなくわかっていたということなのだろう。

「イグルとウェレナは、お前のことが大好きだった。憎まれ口を叩くこともあったかもしれないが、それもまた一つの愛情表現だったのだろう」
「二人がそんな風に言えるのは、あなたがそう言っても大丈夫な相手だとわかっているからなのよ。私やこの人には、そんなことは言わない。二人が本当の意味で心を許すことができるのは、お互いとあなただけだったのよ」
「……そうなのでしょうね」

 お父様とお母様の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
 二人が言ったことは、私も心のどこかでは気付いていたことだ。イグルもウェレナも、私に対しては気楽に接していた。それが何よりの愛情表現だったのだろう。
 そう考えれば考える程に、私の中にあった愛情も溢れ出てくる。昨日まではちっとも思っていなかったのに、今は二人と別れるのがすごく辛くなっていた。

「別れというものは、辛いものですね……」
「ああ、私達だって辛いさ」
「……でも、あなたを送り出すことが私達の使命なの。幸いにも、あなたは良き婚約者に巡り会えた。今の私達にとって、幸いなのはそのことね」
「うむ、改めてよかったと思う。言い方は悪いが、ガラルトの元に送り出す時よりも、心はずっと晴れやかだ」

 家族との別れ、私はそれを改めて実感していた。
 私は、ここから去って行く。それはきっと、とても大きなことなのだ。私はやっと、嫁ぐということの大きさを理解できたのかもしれない。

「これからは二人との時間を、これまで以上に大切にしていきます」
「ああ、それがいいだろう。そうしてやってくれ」
「多分二人も、今まで以上にあなたに甘えるのではないかしら? 時間は限られている訳だし、体裁なんて気にしていられないもの」
「ふふ、それはなんというか、少し楽しみですね」

 両親の言葉に、私は笑ってみせた。
 時間は限られている。だが限られているからこそ、これからの時間を大切にしていきたい。
 私はそう思いながら、再び愛する弟と妹の元へ、向かうことにするのだった。
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