バー・アンバー 第一巻

デエビゴとグランダキシン

へっ?とばかり処方箋に目を通すとデエビゴとグランダキシンという2種類の薬が処方されていた。これを持って薬局に行くのだと思いきやいまここでくれるのだと云う。それぞれの薬の種類と服用方法を聞く。「こちら(デエビゴ)は睡眠薬で就寝前にお飲みください。こちら(グランダキシン)は精神安定剤です。1日3回、1錠づつを…あれ?ちょ、ちょっとお待ちください」と俺に断ってから快活で感じのいい女性事務員が診察室に通じるドアをノックして中へと入って行った。何だかわからないがとにかく俺は『へー、こいつは意外だ。薬が出るとはな。なぜかな?…ふん、単に薬を出せば診療報酬が増すっていうことだろうさ』などと安易に思うしかない。しかしいくばくもなく窓口事務員が顔を赤らめて戻って来「失礼しました。あ、あのですね。こちらのお薬(グランダキシン)も…あ、あの、やはり就寝前に1錠だけお飲みください」と狼狽気味に告げる。何やら診察室の中で叱責でも受けた感じである。しかしこちらもなぜそうなったのかわからず別に気にもしないで薬をいただき会計を済ませた。解放されたようにクリニックを出、内堀通りを渡って新橋駅へと向かう。時刻は3時ちょっと前、秋葉原駅から200メートルほどのところにある会社までは山口に告げた3時半頃には着くだろう。路上禁煙禁止という禁忌にも似た都の条例をも顧みず俺はポケットからわかばを1本取り出すと旨そうに火を点けた…。
 テナントビル3Fにある会社に着くとデスクの山口と挨拶を交わし、彼が指示するままに当たり前のように整理部や校正部の助けをし、新入記者にインタビューの仕方を教えたりする。これは当たり前のことで山口からは何もありがたがられない。
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