バー・アンバー 第一巻

宙に浮かぶパラサイト・イブ

とにかくそのイブも顔に喜悦の表情を浮かべて狂おし気に胸を押しつけてくる。続いて俺の左右の手を取ってその乳房を、腰を、身体中を好きなようにまさぐらせる。これもあの時と同じだが違うのはミキが耐えるような表情を浮かべたのに対して、イブにはそれがない。俺の手によるまさぐりのひとつひとつがそのまま彼女の魂に直接触れるかのような、あたかも『やっと巡り合えた。(ご主人様と?)直接触れ合えた』とでも云わんばかりの喜悦の表情を呈するばかりだ。そしてまさぐる俺に於てもただ肉欲・煩悩の類でそれを為しているような感じがせず、イブ同様の感覚を共有することが不思議である。何と云うか、久しく放ったらかしにしておいた大切なものと再会し得た、抱(いだ)き合えたというような感覚がしたのである。さらに傍目から見れば言語道断も甚だしいこの男女交歓の場を、ましてイブの全裸姿を見られたら大変という、催してしかるべき危惧がまったく起きないのも不思議だ。深夜とは云え、公けの場における睦み合いを暫時堂々とやってのけたあと、イブは互いの喜びを確認し合えたとでも云うようにコクリとひとつ俺にうなずいて見せ、次に『では、さあまいりましょう』とばかりに俺の手を引いて階段へと誘うべく背を向けて歩き出した。それに従ったがしかし階段デッキの縁まで来たところで俺の足はピタリと止まり剰(あまつさ)えイブの手から俺の手を引いてしまう。なぜなら、イブの身体が階段を降りて行くのではなく何と空中に浮かんだからだ!三次元の当たり前感覚、常識感覚からして俺は少なからず怖気づかざるを得ない。これは…とばかりまじまじとイブを見据えてしまう。やはりこの女は幽…?という類の怖気がしたからである。それに気づいたイブは俺に向きなおると片膝をやや折って腰を屈め、哀願するように両手を合わせる。どうかそのまま来てと身悶えせんばかりの切なげな表情を浮かべて。
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