バー・アンバー 第一巻

さて仕事だ

すれば彼女は俺と同じ新聞記者ということになるな。へえ、しかし業界新聞の俺とは格が違い過ぎだ。恐らくはミキこと✕✕✕✕✕✕✕さん同様の才媛なのだろうな、などとも思う。しかしそれにしてもこの中国名は…?とか、いろいろ腑に落ちない。私立探偵に依頼すれば簡単に素性を洗えるのだろうが俺にはそんな金はない。(手帳を見ながら)彼女の携帯番号はこの通りわかっているし…とあごのあたりをさすりながらしばし画策する。結局フィジカルで行くしかないなと当たりをつけてからやおらトーストを食べ始め、それをコーヒーで胃に流し込んだ。いつまでも邵廼瑩検索にかまけてはおれない。インタビュー記事を仕上げなければならない。俺は気を入れ換えると俺が契約している介護新聞社に出す記事を仕上げるべく、小気味よくパソコンのキーボードをたたき始めた…。
 予想される介護報酬額、それに反発するだろう各福祉社団法人の在り様、果てはそれに群がる、利権の固まりたる県議や市議の在り様までみんな頭の中に入っていた。まったく、特養などの福祉社団法人がまるごと売り買いされ、金もうけの具とされるようなふざけた世の中だ。かつて一、二年ほど介護ヘルパーとして現場で働いた経験を持つ俺であれば、そこで働くヘルパーたちの苦労はよくよくわかっている。それを一切解さず、おのれの欲だけを追求するような福祉社団法人の各経営者たち、また自治体役員やら県議・市議どもへの怒りをバネにして一気に記事を仕上げて行く。いまから16年ほど前、俺は静岡にあったとある老人ホームでヘルパーをした経験がある。その前のバブル崩壊以来経済がすっかり失調しまともな就職など思いも及ばなくなっていた。優雅に(だったかな?それなりに人間とは何ぞや?人生とは?などと、俺なりに真摯な追求の末のことだったのだが…)2年間にも及ぶ海外放浪旅を終えて帰国してみれば国はバブルが崩壊して居、致し方なくトラック運転手やらフォークリフト運転手やら種々雑多な業務請負の仕事を転々としていたのである。その一環として俺はヘルパーに就いたのだった。なぜ静岡かと云うとそこが泊まり込みOKの老人ホームだったからだ。その頃根城にしていた横浜・鶴見の安アパートが至って柄の悪いところで(アパート丸々一棟が土建会社の寮のようになっていて、俺を除く他の店子たちは殆ど土木作業員だった)、そこに居たチンピラ風の作業員たちに因縁をつけられ、集団で睡眠妨害を被るような、実に惨めな仕儀になっていたのだ。
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