狼上司と秘密の関係
そう言われて心臓がまたドキリと跳ねる。
もう、口の中の甘い味はとっくに消えてしまっていた。
今はただ、舌の上にチョコレートケーキの食感が残るのみ。
「あれは忘れてほしい」

ズキンと胸が痛む。
今日はあのことについて謝罪したいから会いたいと言われてここに来たのだ。

だから覚悟はできていた。
大和にとってあれは間違いであり、なんの意味もないことを。

それでも心の奥底には微かな期待が残っていたようで、それが鋭利は刃物となって千明の胸を突き刺した。
「わ……わかったてますよぉ。昨日の菊池さん、ちょっと普通じゃなかったし、だから、ちゃんとわかってますから」

早口に言って最後のひとつになったケーキを口に運ぶ。
どうにか笑顔を浮かべているつもりだったけれど、今自分がどんな顔をしているか正直自信はなかった。

「本当に悪かったと思ってる。仕事の部下にあんなことするなんて」
うつむいて何度も謝罪を口にする大和に千明は大きく息を吐き出した。

そんなに何度も謝らないといけないことをしてしまったと思っていることが、また心苦しさを感じさせる要因になっていた。
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