狼上司と秘密の関係
じっとりと額に汗を浮かべながら、驚いた表情を向ける。
「君をまた傷つけてしまうかもしれない」
それは最初のキスのことを言っているんだろうか。

それとも、告白を断ったことを言っているんだろうか。
「それでもここにいます。これが、菊池さんの本当の姿なんですよね?」
千明は大和の右手を握りしめた。

指の爪は少し伸びていて鋭利な刃物みたいだ。
それに口から覗く犬歯も長く尖っている。
「この爪や牙で愛する人を傷つけてきた。だから孤独でいることを選んだんですね?」

大和は答えなかった。
ただ自分の内側から溢れ出してしまいそうになる野性的な衝動を我慢することで精一杯だった。
千明は大和の右手を自分の頬に押し当てた。

大和の体温は千明よりもずっと高くて、とても野性的だと感じられた。
「それは優しさです。菊池さんは自分を犠牲にして相手を守ったんです」

誰にも自分の思いを告げず、誰とも添い遂げることなく過ごす日々は孤独で寂しかっただろう。
誰にも本当のことを言えないままに笑顔を見せていたのだと思うと、胸が締め付けられる。
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