水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる

クリスマスに愛の証を

 社長と海里は、翌週面談をしたらしい。

 断定ではないのは、真央は忙しく同席出来ず、その結果を海里が真央に報告することはなかったからだ。

 真里亜へ聞こうにも、社長の名前を出すと顔を真っ青にして怯えるので、聞けそうにない。

 真央が社長との面談結果を知るとことになったのは、12月25日のクリスマス。

 碧がアロハオハナルームから里海水族館に中途入社してきた際、海里へ詰め寄ったからだ。


「おい、てめぇ……何考えてやがる……!」

「……どうした」

「どうしたじゃねーよ!とんだクリスマスプレゼントだ。借り換えの件を断るなんざ、何考えてる!」

「……声が大きい」

「俺たちはお前のために、仕事を辞めたんだぞ……!このまま紫京院に借金を返済して、ありもしない借金をでっち上げられたらどうするつもりだ!俺らの給料、支払えんのか?ああ!?」

「あ、碧さん!落ち着いて!」

 真央は慌てて海里の胸ぐらを掴もうとする碧との間に割って入り、両手を広げた。海里の胸ぐらを掴もうとした手が真央に触れる瞬間──真央は襟を引っ張られ、海里の逞しい胸元と背中を密着させる。

「まぁ、なんて騒々しいのでしょう……。水族館に、山猿が居ます……。山猿は山に帰るか、動物園に帰るべきではないでしょうか」

「よお、女狐。さっさと山に帰るか動物園で飼育されろよ」


 騒ぎを聞きつけた案内係の紫京院が巨大水槽の前に姿を見せた。

 公演が行われる前まで、水槽の前に姿を見せることなど殆どなかった彼女は、客に公演の場所を聞かれることも多いからだろう。

 観覧者を客席へ案内することもあって、業務上この巨大水槽に訪れることは避けては通れない。

 自らの仕事を全うし、海里の姿を一瞥してから去る姿は、真央も目撃している。
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