水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
「えっ、10人目のマーマンって館長さんだったの?」



 仲間たちが驚くのも無理はない。

 海里は全くと言っていいほど仲間たち泳ぐ姿に興味関心を抱いていなかったからだ。唯一興味関心を抱いたことといえば、真央が中央で泳いでいる姿を見たときだけ。

 それ以外は一切興味関心を抱いていなかったあの海里が10人目であると聞かされた仲間たちは、一人だけ楽をしていた海里に対して、日頃の恨みをぶつけるかのような勢いでもみくちゃにした。



「この、この!」

「いいとこ取りはずるいぞ館長!」

「きっちりしっかりキビキビ働いて貰うからね!」

「最初で最後ってのがムカつくけど……仕方ないかぁ」



 海里はマーメイドスイミングの協会に名前を連ねる際、催しに一切顔を出さないと一筆書いているらしいのだ。



 その約束を破り、今回卒業公演に顔を出す条件として、海里は一度だけであることを強調した。



『一度だけなら、真央と一緒にマーマンとして泳ぎたい。ただし、公式の場でマーマンとして泳ぐのは、これが最後だ。マーメイドスイミングの協会所属のマーマンとしてコーチをするつもりはない』



 海里の言葉を渋々了承した仲間たちは、練習に来ることを嫌がった海里と、ほぼぶっつけ本番で公演を披露することになった。



「最初で最後の公式マーマンとして泳ぐの。楽しんでね、海里」

「……ああ。俺は、真央と泳げるなら……いつだって、楽しめる」



 海里の出番は後半。

 30分のショー、ラスト5分間にだけ登場するスペシャルゲストとしての扱いだ。



 真央は25分間仲間たちと、巨大水槽の中で縦横無尽に泳ぎ回り、観客達のボルテージを高めていく。

 ウミガメのウミを伴って水槽の上部に顔を出した真央は、水槽の縁に腰掛けて待っていた海里を誘った。



「行こう、海里!」



 ウミガメのウミは真央と仲良さそうに手をつなぐ海里の姿を物珍しそうに見ては、二人の間に両手足と頭を甲羅の中に収納すると入りこもうと画策する。

 観客たちの笑いを誘いながら、くるくると横回転を披露した二人は、ほとんど練習をしていないとは思えない息のぴったりとあった泳ぎで観客を魅了していく。


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