水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる

人魚マジックで、正気に戻して

「とりあえず、1から100まで説明してくれる?」



 マーメイドスイミング協会の真央を含めた5人と海里は、合計6人で丸い円を描く。巨大水槽の出入り口横の床に座り込んだ彼らは、ひそひそと声を落とし、真央と手を繋いだまま胡座をかく海里から事情を引き出そうとしていた。


「あのね、海里……私が人魚の時しか、お話してくれなかったの」

「人魚の時しか話せないって……」

「いや、さっき普通に話してただろ。どうなってんだ?」

「わかんない。この水槽で泳いでいたり、人魚の格好してるとね、お話してくれたんだけど……」

 ここに来るまでの間、真央の手を引っ張りながら狂った愛を呪詛のように囁き続けていた海里は、今はまたぼんやりと死んだ魚のような目をしている。
 心ここにあらず。そんな言葉がよく似合う彼を取り戻そうと、真央は仲間たちに提案した。


「……えっと、脱ごうか?」

「もう水着、脱いだ後でしょ」

「下着の上から……履く……?」

「水槽の中に入らなければ、いいと思うけど……」

「待て待て。安直に下着を見せびらかすなよ……」



 真央は一度海里の手を離して背を向けると、大胆に着替えたばかりの服を脱ぎ、下着姿になるとフィッシュテイルを装着した。

 上も胸元を覆い隠す下着のままでは、マーマンが目のやり場に困ると告げられた真央は、仕方なく仲間からパーカーを借りて羽織る。

 準備ができた真央は海里の胸元をトントンと叩くと、海里はぼんやりと横に座り、フィッシュテイルの中へ足を収めた真央を見つめた。



「海里、わかる?真央だよ」

「……真央……」

「わ、ひゃあ……っ!」



 海里は真央を力強く抱きしめると、仲間たちが見ている前であることなどにした様子もなく、低い声で真央に愛を囁く。

「真央……愛している……」

 真央はその言葉を、海里と再会してからずっと求めていた。
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