水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
(海里を追い込むようなこと、したらだめだからね)

 仲間達とのアイコンタクトは、マーメイドスイミング中に何度も行っているから慣れっこだ。仲間達と視線で会話し合う真央が気になるのだろう。
 海里は真央の瞳を両手で塞ぐと、仲間達と目線で言葉を交わさないように邪魔をする。

「海里?真っ暗で、何も見えないよ……?」

「嫉妬かぁ……」

「嫉妬だな」

「器の小さい男は、お姉ちゃんもあまり好きではなさそうです……」

「真実の愛を前にしたら、うちら外野が何言っても無駄でしょ」

「確かに」

 真里亜の言葉を聞いて難しい顔をした仲間たちは、一斉に肩を落とした。

 本人が良ければ、外野がこれ以上何を伝えても無駄だと判断したのだろう。

 仲間たちは呆れ顔でバカップルを見つめると、今後についての話をするべく話題を提供した。


「とにかく、館長さんが最優先するべきは、借金完済ですからね。完済するまでは、ちゃんと節度を持った交際をしてくださいよ?」

「わかった!私、海里と交際する!」

「……俺と真央は、交際しているのか」

「してないけど、結婚の約束はしたよね?」

「……そう、だな」

「私は海里のことが好きだもん。海里も私のことを好きなら、私は海里の彼女だよ!」

「……俺は真央が好きなのではなく、愛しているんだ」



 海里は好きと愛しているの違いは正しておきたいらしく、眉を顰めながら真央の主張に異を唱えた。

 海里の様子を見た仲間たちは、真央の交際宣言を聞き、顔を見合わせて海里に聞く。

「真央はこう言ってますけど……。もしかして、交際しているつもりはなかったりします?」

「そのあたりは……まぁ……。借金返済をするまで、曖昧にしておく予定だった……」

「それって、真央には愛してるとか囁いて置きながら、キープするつもりだったってことですか?」

「最低……」

「真央と交際する、しないに関わらず。どうあがいても詰んでねぇか?」

「どっちにしろ不誠実で、最低ですよね……。ホストクラブに勤めたら、数日で億プレイヤーになりそうです」

「軽蔑するなら、好きにしてくれ。真央が俺を好きでいてくれるなら……他人の評価などどうでもいい……。俺は真央だけを愛している……俺と真央が交際を宣言しようが、しまいが、俺たちは必ず、添い遂げると誓い合った。それでいいだろ……」

 人魚姿の真央が目の前にいるにも関わらず、真央が見上げれば海里の瞳はまた酷く濁り、死んだような目になった。

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