水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
「わたしも、立派な人魚さんになるから」

 真央は少年の手を拒んだが、代わりに頬へ口付けを落とした。両手を繋ぐことは拒まれたのに、頬とはいえ口付けを落とされるとは思っていなかったのだろう。カッと顔を赤くした少年は、真央に何かを告げようとした。


「わたしのお守り、あげる」


 少年の唇を人差し指で塞いだ真央は、左耳につけていたイヤリングを外すと、少年の耳につけた。人魚の涙をモチーフにした、アクアマリンの人工石がつけられたイヤリングは、少年の左耳と真央の右耳に一つずつ付けられている。真央の瞳と同じ色だ。


「大人になって、再会できるように。ずっと、大切にしまっておいてね。わたしも、これを付けて。絶対、ここに戻ってくるから……」


 再会した時、すぐにわかるようにと、真央は祈りを込めた。

 真央の祈りを受け取った少年は、離れ難い気持ちを心の奥底へ追いやると、真央へ問いかける。


「……わかった。最後に、一つだけ」

「いいよ」

「俺は、海里(かいり)。君の名前は?」

「真央だよ!」


 真央は笑顔で自らの名前を名乗り、少年に別れを告げた。
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