水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる

かつての仲間と、これから

「ごめん、真里亜。里海を立て直すために協力して!」

「協力をする気がなかったら私、土日を返上してショーになんて出てないよ……?」

「真里亜の会社で働いている人を引き抜くことになったら、真里亜のファンだっていう社長さんに声を掛けられて――ごめんね。真里亜のこと、売っちゃった」

「お、お姉ちゃん!?」

「ごめんね、真里亜!社長さんへの枕営業を強要して!申し訳ないけど、貞操は自分で守りつつ、真里亜の会社傘下に入れるよう、誘惑してくれたらありがたいなぁって……」

「お姉ちゃん……っ」



 真里亜は泣きが入っていた。

 当然だ。姉が勝手に避けていた人物に正体をバラし、距離が近づくようなイベントを開催すると宣言し始めたのだから。

 真里亜にお伺いを立ててから約束を取り付けようにも、真里亜には真里亜の事情がある。

 真里亜に許可を取ろうとすれば、きっと了承しなかったし、社長のおまけとして碧を連れ出さないと、里海には戻ってこなかっただろう。

 真里亜を犠牲にすることこそが最善なのだ。頑張ってほしい。



「社長に、お願いするの……?」

「基本は海里と社長さん同士でお話して貰って条件を決めるけど、今の里海は、消費者金融からお金を借りているようなものだから」

「うん……」

「真里亜が務めてるってことは、それなりに信頼できるでしょ?ローンの借り換えみたいなものだよね。社長さんの傘下に入ったとしても、また運営会社が変わるのかーとか、色々言われるだろうし……」



 碧がどんな伝を使って今の会社に入社したのかは分からない。しかし、紫京院の手を取ることに関して難色を示しているのは確かだ。

 社長と軽口を叩き合える中なら、最初から紫京院なんかの手を取らず、碧に相談してこっちと提携すれば、真央と再会した瞬間に文句を言われることなく婚姻できた。

 碧だって、ずっと里海水族館で働いていただろう。



(私が、里海水族館をあるべき姿に戻すんだ)



 どうしようとあわあわしている真里亜は放置して。日曜日、真央は勤務中の海里を呼び止めた。



「焦らず、ゆっくりお進みください。全席指定となっていますので、席はご来場された全員にご用意されています」

「か……館長!」



 海里が拡声器を持って公演のチケットを持った人々の誘導をしている所に突撃した真央は、海里の名前を呼ぼうとして自重した。

 真央が海里と仲良さそうに話している所を噂されたら、面倒なことになる。

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