難攻不落の女
■1

 月に一度の部長ミーティングを終えて、宇美晶(うみあきら)は化粧室に立ち寄った。鏡を正面から見つめたまま、ゆっくりと首を振る。
 フェイスラインを辿ると、首に近い部分にまた、見覚えのないほくろができている。手のひらで頬を包んで引き上げ、昔はこんな感じだったっけと、二十年前の自分の顔を思い出そうとした。

 若い頃にはつり目できつい顔立ちだと言われていたが、ここ五年で目尻が下がった。歳をとったら丸くなるという言葉の意味には、考え方や感情の尖りがとれるという意味だけではなく、重力に逆らえずに皮膚が下がり、目が丸くなるという意味も含まれるのではないだろうか。

「まあ四十五ならこんなもんだろう」
 宇美はつぶやいて眼鏡をかけ直し、肩までの髪に指を通す。

 部長クラスでは紅一点なんだから、もう少し頑張れよと、定年間際の同僚から励まされたが、頑張るのは仕事だけで十分だ。魅力、活力を含む生命のピークは繁殖が可能な期間というのが、ほとんどの生き物に当てはまることであり、人間も例外ではないからだ。
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