君の世界に触れさせて
 古賀が素直にたくさん伝えてくれたから、僕は前を向けた。


 そんな古賀のために、まだ僕にできることがあるなら、全部やりたい。


 全部やって、古賀に笑ってほしい。


「……明日までには終わらせるから、待ってて」


 それから僕は、外での用事を終えて家まで走った。





 家の鍵は開いていた。


「ただいま」


 靴を揃えることもせず、家に上がる。


「栄治?」


 母さんが驚いた様子で顔を覗かせた。


 キッチンから甘い香りがするということは、今日もお菓子作りをしていたのだろう。


「学校はどうしたの?」
「ちょっと、やりたいことがあって早退した」


 数回瞬きをして、母さんは怒ることなく微笑んだ。


「そっか」


 その反応に僕のほうが驚いてしまった。


 母さんはそのままキッチンに戻り、僕は部屋に向かう。


 少し前に服を定位置に片付けたことで、床が見えるようになった。


 僕の宝物たちは、棚に並んでいる。


 居心地のいい、僕の部屋。


 机の上にカバンを置き、買ってきたものたちを出していく。


「……よし」


 そして僕は、黙々と作業を始めた。
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