偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる
 にわかにこみ上げた不快感が顔に出てしまいそうで、花穂は広斗から目を逸らして俯いた。

 響一は彼女を気さくに名前で呼ぶ程親しいのだから、仕事後飲みに行くくらいはありそうだ。

 広斗に連絡して来たそうだから、三人で集まろうとしているのかもしれない。少しもおかしな話ではない。

 そう分かっているのに、嫌だと言う気持ちを抑えられない。

「花穂さん?」
「あ、すみません。ぼんやりしてしまって」

 怪訝そうな広斗の声に、花穂は作り笑を浮かべて誤魔化す。しかし心は晴れないままだ。

 響一の仕事量はかなり多いようで、毎日それなりに残業をして業務をこなしている。

 今日に限って、早く終わるなんてことがあるのだろうか。

 朝食の席で話した時には百合香と飲みに行くなんて、ひと言も言っていなかったのに。

「花穂さんに余計な心配をかけてしまい申し訳ない」

「いえ、大丈夫ですよ」

「そうですか……ではそろそろ失礼します」

「はい、お気をつけて」

 広斗が足早にアリビオを出ていく。後ろ姿を見送りドアが閉まると花穂は小さな溜息を零した。
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