偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる
叶った夢




 三月一日。暦の上では春になったというのに寒さはまだ厳しく、アリビオの窓から見る通りには厚手のコートを着た人々が行きかっている。

 ここ数年の気候は暑い時期と寒い時期が長く、春と秋が短くなった気がする。そんなことを考えていた花穂の耳に、不機嫌さが滲む伊那の声が届いた。

「ねえ、最近響一さんと何か有ったでしょ?」

 窓の外に向けていた視線を返すと、アリビオの制服に着替えた伊那が腕を組み佇んでいた。

 開店前の準備時間の今、店内にいるのは伊那と花穂だけだ。そのせいか、彼女は仏頂面を隠しもしない。

「どうしたの?」

「それはこっちの台詞。最近やたらと溜息を吐いたりぼんやりしているけど、何があったの? その内話してくれると待っていたんだけどいつまで待てばいい?」

 どうやらしびれを切らしたということらしい。

「ごめん。そんなに態度に出てると思わなかった」

「謝るのはそこじゃないと思うけど。いつからそんな秘密主義になったの?」

「そう言う訳じゃないんだけど」

 伊那に促され、近くのテーブル席に腰を下ろす。

「で、どうしたの? また実家で問題が起きた?」

 彼女がこういう強引な言動をするのは、心配してくれているときだ。

「心配かけてごめんね。でも実家は関係ないの。父は六条グループの企業で順調に働いているし、母の体調も回復して来ているから」
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