まじないの召喚師3
「先輩に何してくれてんのさ!」
それを許さないのがツクヨミノミコト。
私の体を奪い、先輩に牙を向けた大型の獣を重力で地面に沈めた。
このバカ、公衆の面前で!
「先輩より優先すべきものはないよねっ」
完っ全に、怒ってらっしゃる。
『…………同情するが、諦めろ』
ああもうっ、ツクヨミさん、今が幸運の使いどきですよ。
「フッ………。うまくやるさ」
好戦的に唇を舐めて、神力を解放する。
瞬間、あちらとこちらを隔てる壁が破れ、生徒達が雪崩のように外側に溢れ出す。
それに巻き込まれた狩衣の大人達は、もう一度結界を貼り直すどころではない。
水瀬も、響達側の少年少女達も、全員の意識がそれたほんの一瞬。
それだけあれば十分だった。
青黒いモノを重力で地下へ、地下深くへと押し潰す。
それだけで、第一の脅威とされていた水瀬の術は無力化される。
元が液体。
地面に染み込んだそれに、神力の塊をぶつけられて浄化した。
浄化の光は地上に漏れないから、バレない。
お手軽完全犯罪の出来上がり。
「ふふっ、簡単だねぇ」
鼻歌混じりに踵を返し、混乱する生徒の最後尾に紛れに行く。
長い前髪のおかげで、唇が笑みの形に歪んでいることに気づく者はいない。
スキップのステップなツクヨミノミコトから身体を取り返して、全力で走る。
いくらぼっちといえど、命の危機にソーシャルディスタンスとるほど我が身を捨てていない。
ひとりだけ浮いた行動をとれば目立ってしまう。
高い位置にいる水瀬だけが、青黒いスライムが姿を消したことに気づいていた。
気づいていて、呆然としている。
ツクヨミノミコトの介入に気づいたかな?
『気にすることはない。君は上手く溶け込んでいるよ』
ツクヨミノミコトからも、凡人のお墨付きをいただいた。
ひとまずは、逃げ惑う一般生徒の演技を続けよう。
無心で走ると、心の靄がハッキリと実体を持つ。
ツクヨミノミコトが簡単そうにやってのけた一瞬の事が、私には難しい。
実力差を痛感しながらも、匙を投げる気にはならなかった。