まじないの召喚師3



「んー、あ、あれだね。ボクわかっちゃった」



じっと紙を見ていた柚珠が明るい調子で言う。



「あれとはなんだ!」



目をせわしなく動かしていた常磐がもう一歩柚珠に迫る。

柚珠は一歩距離を置き、得意げに話し始めた。



「えっとねぇー」



「しらん!」



「まだ何も言ってないし! 大人しく話を聞いてよ筋肉達磨!」



文書の解読は柚珠達に任せて、私は先輩の側に寄る。



寄っただけで、先輩とマシロ君にかける言葉が見つからない。

……………。

……………………。

あー………。

何も考えられない。

どうすることもできない、私は無力だ。

濃い血の匂いが、真っ白な頭の中を染め上げる。



「………ぁ」



かすかな命を諦めまいと、ヨモギ君が声を上げる。

彼の手を小さな手が握り込み、えんえんと泣く。

その上に、先輩の手が重なる。


平静を装うそれは震えていた。


私は頭を振って、空っぽな脳みそを動かす。

ヨモギ君を助けないと。

嫌がらせばかりしてくる試験官に負けるなんて嫌。

どうにかしないと。

何をしたらいい。

まだ生きている、まだ助けられるから。

泣く以外のこと、少しでも救命に繋がる道は。



「…………あ」



ふと。

つい最近の、似たような風景を思い出した。

なんで今まで忘れていたんだろう。


神水流邸で、人や鬼が大勢生き返ったあれ。

スクナヒコナに頼めば。



「だめ」



ツクヨミノミコトが私の目の前に浮かび上がり、感情の見えないガラス玉の瞳を向けてくる。



「スクナヒコナは、蘇生に大きな力を使ったばかり。ほかの用途ならまだしも、瀕死の回復のために呼ぶべきは今じゃあない」



人知を越える力だ。

いくら神とはいえ、ノーリスクではないのだろうけど、理解ができない。



「瀕死だから、お願いするんじゃないの! 今呼ばないで、いつ呼ぶんですか! どうしろっていうの!?」



感情のまま、ツクヨミノミコトに苛立ちをぶつける。

自分に解決する力がないのに騒ぎ立てるのは、理にかなっていないとわかってる。

でも、感情が抑えきれない。

無意味に責め立てようと口がひらきかけたところで。



「ねえ」



それまでどこかに行っていた響がぬっと、先輩の正面に立っていた。

長い前髪の隙間からメガネが怪しく光り、表情が見えない。

先輩は響を睨みつけ、低い声で唸る。



「なんだ」



「………来て」



有無を言わさぬ声だった。



「…………」



「…………」



しばらく無言での睨み合いが続いたが、やがて先輩はヨモギ君を横抱きにして立ち上がる。

目で何を話したのか。

その目は、希望を見つけたように光が灯る。

響の先導で、2階の彼の部屋に行く。

中央に鎮座するのは、人ひとり入れる大きさの瓶に、なみなみ入った赤味がかった液体。



「………回復液。そのこを、これに入れて」



ヨモギ君を抱きしめる腕が強くなる。


まだ治験の段階で、どこまで効果があるのか。

副作用は?



「……………信用していいんだな」



たっぷりと間を開けて聞いた先輩の頭の中では、諸々の計算がかけ巡っていたことだろう。



「……僕の家が、あやかし相手に何をしてたか、知ってるでしょ。それに、あのひとのこどもなら尚更、死なせない」



「効果はボクと、筋肉達磨も体感してる。おかしなところはないよ」



「ああ!」



いつの間にかついてきていた柚珠と常磐が援護する。



「…………頼む」



響の決意のこもった目にかけることにした先輩は、血まみれのヨモギ君を、液体に入れた。


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