飛べない小鳥は見知らぬ運命の愛に震える

 琴鳥は中学2年生のときに学校で無神経な性別一斉検査を受けた。
 第2の性を確認するための検査だ。
 この世界は基本的に1人で2つの性を持つ。
 第1の性は男女。第2の性はアルファ、ベータ、オメガだ。
 生まれたときには男女の性別のみだが、第2次性徴期に第2の性が発現する。そのころに第2の性の診断を行う。第2の性は遺伝に由来しない。
 結果の用紙は教室で渡された。朝のホームルームで1人ずつ名前を呼ばれ、渡されていく。
「他人に結果を見せるんじゃないぞ」
 担任はそう言って教室を出ていった。
 すぐにみんな仲良し同士で集まって結果を言いあった。
「やった、ベータだ」
「私もー! よかったー!」
 ベータであれば普通の人生を歩んでいけると喜ぶ人が多い。
 ベータはいわゆる普通の人で、90パーセント以上を占めている。残りの5パーセントがアルファ、5パーセントがオメガだ。
 アルファは優秀で外見も優れている。弁護士や医者、社長などが多い。また、アルファであれば女性でも妊娠させる能力を持ち、そのための生殖器もある。
 オメガは逆に何もかも平均より劣ると言われ、オメガであれば男性でも妊娠する。
 オメガはヒートと呼ばれる発情期があり、そのために差別的な扱いを受けることが多い。
「判定不能、再検査だって!」
「おこちゃまってことじゃん」
 笑い合うクラスメイトがあふれる中、琴鳥は血の気の引いた顔で紙を見ていた。
 琴鳥はオメガだった。
 何かの間違いじゃないかと、ずっと用紙を見ていた。
「琴鳥はなんだった?」
 友達の1人が琴鳥の持つ紙をひょいととりあげ、固まった。
「なになに?」
 ほかの子も寄ってくる。
「オメガ!?」
 ざわざわと周りの人間が琴鳥を見つめる。
「やだ、近寄らないで! オメガが移ったらどうするの!?」
 感染などしないのに、1人がそう言った。
「オメガの友達なんてありえない」
 紙を持った子が、用紙を琴鳥に突き返す。
「やめなさいよ」
 初音が割って入った。
「頭の足りない偏見に満ちた発言のほうがありえない。もっと知性が必要ね」
 初音が言うと、琴鳥を取り囲んだ女子たちはすんなり散った。片隅に集まり直して琴鳥と初音を見てはひそひそと話をする。
 このときから初音は琴鳥の親友になった。
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