素直に好きと言えたら*遠回りな恋*
守谷くん、なかなか来ないな。
もしかして遅刻とか?
あと5分で予鈴が鳴ってしまう。
今日は諦めようかな。
教室へ行こうと靴から上履きに履き替えていた時、後ろから数人の賑やかな笑い声が聞こえてきたので、何気なくそちらを見ると3年生の派手なグループが昇降口に流れ込んできた。
その中に守谷くんと塩野さんもいて。
守谷くん一人で登校してくることしかイメージしていなかったから声が掛けられないよ。
やっぱり派手なグループの人たちは苦手。
もう今日は守谷くんに話し掛けるのを諦めて教室へ行こうとしたんだけど。
「あれ? 羽瀬・・・さん、だよね?」
うっ。
守谷くんが私に気付いて声を掛けてきた。
「ねえ、羽瀬さん。俺に返事くれないの? ずっとライン待ってるんだけど」
その守谷くんの話を聞いて一緒にいた派手なグループの人たちがクスクスと笑っている。
なんか嫌な感じだな。
やっぱりあのルーズリーフの中身を皆が共有しているんだ。
私は返事をせず守谷くんを無視して教室まで歩いて行こうとした。
「ねえ、待ってよ羽瀬さん。俺、勇気出して手紙書いたのに。無視?」
守谷くんが私の手首を掴んで歩く足を止めさせる。
「ちょっと、離してください。私、遊園地なんて行きません」
「は? なんでよ。一度くらい付き合ってよ、羽瀬さん」
私が断っても食い下がらない守谷くん。
周りの人たちはそんな守谷くんを見て笑っている。
「だから言っただろ、隼人。真面目ちゃんは無理だって」
「隼人が振られたの初めて見たわ。きゃははっ」
「よっしゃ! 俺たちの勝ちだな」
守谷くんになのか私に向かっての言葉なのか、守谷くんの周りにいた人たちが茶化している。
「うるせーよ、お前ら。俺はまだ負けてねぇだろ。な、一緒に遊園地行こうぜ、羽瀬さん」
守谷くんの言う負けてないとか周りの人の言う俺たちの勝ちとか、絶対に私をからかっている。
「勝ちとか負けとか、おかしいと思った。もう私のことは放っておいてください。迷惑で・・・す」
こんなのいじめじゃないの。
最後まで言い切るまで泣かないつもりだったのに。
「私の態度を見てみんなで笑ってたんでしょ。最っ低!」
守谷くんを睨み最後の言葉を言い切った時、目から涙が溢れた。
私の手首を掴んでいる守谷くんを振り切って、私は教室まで走った。
悔しい。
こんなことで泣くなんて。
守谷くんもあの人たちも最低だよ。
教室の前まで来ると腕で涙を拭き、何事もなかったようにしたんだけど。
教室へ入ろうとしたらドアのところに斗真が立って私を見ていたの。
「陽菜、何かあったよな。なんで泣いてんだよ」
斗真に泣いていたところを見られていた?
「なっ、泣いてなんかないよ。目に。目にね、何か入って痛かっただけだよ」
泣いている理由なんて、言えないよ。
斗真には嘘だと見破られるだろうけど、目が痛かっただけと嘘をついてごまかした。
「本当かよ? 守谷と話したんだろ。さっき麻里から聞いた。遊園地の話、したんだよな? それが関係してんのか?」
「ちゃんと守谷くんに話した」
「守谷になんて言ったんだよ」
「羽瀬さん!! 待ってよ。さっきの・・・」
斗真からの問いと同時に階段を駆け上がりながら私の名前を呼ぶ守谷くんの声が被った。
「羽瀬さん、さっきの。違うんだって。アイツらが勝手に言ってるだけでさ」
守谷くんが側に来たから思わず斗真の背中に身を隠した。
「もう、いいよ。守谷くん、もうこれ以上話す事なんてない」
斗真の背中越しに守谷くんにそう言うと、多分理解できていない斗真が、あろうことか遊園地の話を進めてしまった。
「なあ守谷。陽菜から聞いたと思うけど、日曜日は俺と麻里も一緒に行くから。守谷と陽菜の2人になんてさせないから」
「えっ、斗真? 待って待って。言ってない。私行くなんて言って・・・」
私の言葉を遮り、守谷くんが斗真の肩をポンポンと叩きながら、
「そっか、そういう事か。ならいいじゃん、4人で行こうか。それならいいだろ、羽瀬さん。もう決まりな。後で待ち合わせの時間とか決めるから俺にラインしといて。じゃ!」
そう言うと守谷くんは自分の教室へ入ってしまった。
守谷くんがこの場からいなくなると、斗真が振り向いて私の顔を覗いてきた。
「なんか、違った? 俺、何か間違えたか?」
「うん。盛大に間違えてるよ、斗真」