素直に好きと言えたら*遠回りな恋*

1人ブツブツ言いながら守谷くんについて行くと、いつの間にか駅のロータリーの端まで来て。

「はい、これ被って」

守谷くんから渡されたのはヘルメット。

しかも自転車に乗る時の軽くて簡単なヘルメットじゃなくて、なんだか重い本格的なヘルメット。

「これって?」

「早く被って。路駐してるから早く動かしたいんだけど」

そう言うと守谷くんは私に一度渡したヘルメットを取り、私の頭に乗せて上から軽くポンと押した。

そして子供に着けるようにストラップをカチっと締めてくれる。

「えっと。ん? ヘルメット?」

状況を飲み込めていない私をよそに、守谷くんは目の前に停めてある大きなバイクにまたがり、後ろの席をポンポンと叩いて私に乗れと催促している。

「守谷くんのバイク? え? 私が乗るの? 無理だよ、無理」

バイクなんて乗ったことないし、守谷くんのバイク大きいし、怖い。

「文句言うな。安全運転するから俺を信用して」

真っ直ぐ私を見る守谷くんの目に負けたと思った。

「わかったよ。乗るから待って」

ドキドキしながら守谷くんの後ろに座ってみたけど、一体どこを掴めばいいの?

「羽瀬さん、怖かったらずっと目を瞑ってていいから。それからここに手を回して、絶対に手を離すなよ。いいな」

守谷くんが私の両手を守谷くんのお腹の前まで引っ張り、抱き着くような形にさせる。

とっても恥ずかしい。 

私の心臓の鼓動が守谷くんに伝わってしまうんじゃないかってくらいドキドキが止まらないよ。

「じゃ、行くよ」

その声と同時にバイクが走り出す。

後ろに引っ張られそうになるのを必死でこらえながら、叫び声を出していた。

「ぎゃーーーーっ! 怖いって! ギブギブ」

幾ら叫んでもバイクの音でかき消されてしまうから守谷くんはそのまま加速してノンストップで遊園地まで走った。

走っている途中、時々守谷くんは左手で私の手がちゃんと守谷くんの脇を掴んでいるかそっと触って確認しているのが分かった。

心配しなくても大丈夫だよ。

守谷くんの服が破れようと私はこの手を絶対に離さないから。

目を瞑って体を守谷くんの動きに任せていると、怖さはだんだん消えて、色々な雑念を考えられるまでになっていた。

今日パンツスタイルで良かった、とか、せっかく髪型作って来たのにヘルメットで台無しじゃないの、とか。

あとは斗真にバイクで来たことを知られたくないな、とか。

変な事ばかり考えていたらあっという間に遊園地に到着して、バイクを駐車場に停めるとやっと私は解放された。

被せてくれた時と同じように守谷くんが私からヘルメットを脱がしてくれた。

「ぶっははっ! 羽瀬さん、顔! マジかよ。ひー、腹痛ってえ」

何故か守谷くんが私を見て大爆笑している。

「なっ、何? 何がおかしいの?」

「そんなに怖かった? めっちゃ大泣きしてんじゃん」

守谷くんに言われて指を目に当ててみた。

私、泣いてるし。

泣いていることに気付くと益々涙が出てきてしまう。

「ふえっ、ごわがっだー」

「ごめんって。泣き止んでよ。くくくっ」

笑いながら守谷くんが謝ってくる。

「帰りは絶対に電車で帰るぅ。もうバイクになんて乗らないもん」

「分かったよ。帰りは電車な。ほんと羽瀬さんって俺の周りには居ないタイプで新鮮だわ」

私だって、守谷くんみたいな人初めてだよ。

涙は止まったけど、きっと顔はグチャグチャだろうな。

斗真たちが来る前に冷静にならないと、また斗真に心配されちゃう。

「ちょっとトイレ行ってくる。顔整えてくるから」

「そのままでも十分かわいいよ、羽瀬さん。ぷぷっ」

どこまでも笑い続ける守谷くんにつられて私も笑ってしまって。

「うるさい!」

笑いながら守谷くんに文句を言って、トイレに向かった。

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