妻の産卵

　鼻歌交じりで家路を辿る。
　何しろ、僕は結婚してまだ１ヶ月の、新婚ホヤホヤだ。
　妻は、まさに僕の理想の女性で、こんな素敵な人と結婚できるなんて、夢ではないかと思って頬をつねったりしてみる。
　痛い。甘く幸せな痛みだ。
　今日の夕飯は何だろう？
　妻があまりに料理上手なので、つい食べすぎて太りやしないか？というのが、今のところ最大の悩みという、まさに、幸せボケとはこのことか。
「ハニー！アイムホーム！」
　馬鹿かと思われそうだが、新婚なんてこんなものだろう。
　いつもなら、聡明で貞淑で美しい妻が、玄関まで迎えに来てくれるのに、今日は反応がない。
　どうしたのかと思い、リビングを見遣ると、青ざめた妻が、大きな卵を抱えていた。
　卵は、クッションか何かだろうか？
「どうしたんだ？そんな青ざめて」
「ねぇ、あなた…本当の私を知っても、嫌いにならないでくれる？」
　なにやら、雲行きが怪しい…。