教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!
「タイミング良すぎません?」

 支度が終わってすぐさま駆けつけたイザークに、エレノアはついそんなことを口走る。

(ザーク様もカッコイイ……)

 イザークは正装で、真っ白な騎士服に身を包んでいる。胸元にはミモザのミニブーケが挿されている。

 照れ隠しでそんなことを言ってしまい、顔を背けると、エマがエレノアの肩にポン、と手を置く。

「私が知らせたんですよ。まあ、お早いご到着はイザーク様が走って来られたからでしょうけど」
「え?」

 イザークをからかうように言うエマに、エレノアは別の意味で首を傾げる。

「エマ、ずっと私と一緒にいたよね?」

 どうやって?という表情のエレノアに、エマは「ああ」と言って笑う。

「私は手紙を転移させる能力を持っているのです」

 エマは人差し指でふわりと文字を書くと、それは手紙に形を変え、一瞬で消える。エレノアが目を瞬いたのち、その手紙はエレノアの手の中に納まっていた。

「ええ?!」
「エレノアが教会に囚われた時もエマの能力のおかげで場所を特定出来た」

 驚くエレノアに、イザークが説明を付け足す。

「え?! だからあの時、エマもついてきてくれたの?」
「イザーク様なら必ずエレノア様を助けに来られると思ったので」

 ふふ、とエマはその美しい顔を緩め、人差し指を唇に当てた。

(し、知らなかった……。カーメレン公爵家、底が知れないわ……)

「エレノア様、これ」

 まだ目を丸くしていたエレノアにエマはミモザのブーケを手渡す。

「どうして……時期じゃないのに」
「サンダース商会が用意してくれました。魔法で保存している花屋に伝があったようで」

 ふわりと甘いミモザの香りがエレノアの鼻を掠める。

「嬉しい。私の好きな匂い」

 エレノアはすう、とミモザの香りを吸い込む。

「エレノアはこっちだろ」

 ミモザに顔を埋めていると、イザークから腰を引き寄せられ、あっという間にイザークの胸の中へとうずめられる。

「ザーク様……」

 安心するミモザの香りに酔いそうになる。

「ああ、マルシャが、離婚したらいつでもお嫁においで、って言っていましたよ」
「何だと?!」

 控室を出る間際にエマがいたずらっぽく言うと、イザークは眉根を寄せた。

 それを見たエマは、ニヤニヤしながらも部屋を出て行ってしまった。
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