教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!
 活き活きと働く彼女の表情を見て、イザークは彼女に抱いていた恋心が確かな物だと確信した。と同時に、今の彼女の幸せを壊して良いものか悩んだ。

 エレノアの居場所を突き止める過程で、彼女が教会から受けてきた待遇の悪さや、使い捨てのように追放されたことを聞かされていたからだ。

 イザークはそのことをオーガストに話すと、呆れたような表情をされた。

『あの果実飴屋は王都で今や大人気です。そのうちエレノア殿の存在もバレます。そして、私の鑑定では、彼女の力はまだ強い。教会が連れ戻すのも時間の問題。そうなれば貴重な証言者を失います』

 ジョージに買いに行かせた果実飴を見せながら説明する彼の言葉を聞きながら、イザークは納得しつつも、しきれない顔をしていると、弟から思ってもみないことを提案された。

『では、兄上が幸せにしてやれば良いんじゃないですか?』
『何……?』

 オーガストの突拍子もない提案にイザークは驚いた。

『元々、彼女はこちらで保護して匿う予定でした。それならいっそ兄上が結婚して、守って差し上げれば良いのでは』

 彼女を想いながらも、結婚までは考えてもいなかったイザークは、ただ驚かされた。

 オーガストは兄がエレノアをずっと想っていたことを知っていた。冗談だったのか、本気だったのか、それは今でもわからない。しかし、イザークはそんな弟の言葉に乗ることに決めたのだ。

『わかった。俺がエレノア殿を生涯守ると誓う』

 決意したイザークの表情を見て、オーガストは「そうですか」と静かに笑った。

 それから、彼女を迎えに行ったものの、つい彼女のペースに乗せられ、イザークは話をすることもままならなかった。

(まずは俺を知ってもらおうと果実飴屋に通っていたら、オーガストが痺れを切らして、今に至る、というわけだが……)

「彼女の果実飴屋、続けさせて良かったのか?」
「兄上だって、彼女の今の生活を壊したくない、とおっしゃっていたでしょう」

 ようやくエレノアがイザークの元にやって来た。そんなことを思い返し、ふとオーガストに質問をした。

 彼女を閉じ込めたいのかと思っていたのに、オーガストはエレノアの「飴屋を続けたい」という願いを了承した。

「まあ、今まで通りとはいきませんが。売り子はこちらで手配して、彼女には飴作りの裏方だけに専念してもらいます。もちろん護衛も付けます」
「……ありがとう」

 よく出来た弟は、イザークがポツリとお礼を呟くと、何故か嬉しそうに笑っていた。
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