教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!
「んむ……う」
「愛している、エレノア。愛しているんだ」

 唇を離し、懇願するかのようにエレノアの瞳を覗き込んだイザークは、再びエレノアの唇を塞いだ。

(力、強い……抵抗出来ない……怖い……)

 騎士の力にエレノアが適うわけもなく、抵抗虚しく、エレノアは無理矢理キスされる形になっていた。

(こんなの、違う。嫌だよ……)

 初めてキスをした桃の甘い香りの思い出が蘇る。今はただ無機質な無理矢理のキス。

 エレノアは悲しくなってボロボロと泣き出してしまった。

「エレノア?!」

 驚いたイザークが顔を離す。エレノアは涙が止まらず、ひたすら泣きじゃくる。

 エレノアの肩を抱き、ぐっと辛い表情を見せたイザークは、エレノアから手を離した。

「すまない……。二度と君を泣かせないと言ったのに。俺が君を泣かせてしまった」

 ふるふると首を横に振るも、エレノアは涙が止まらない。 

「エレノア、二年ぶりに魔物の大掛かりな討伐が決まった」
「え……」

 イザークの突然の言葉に、エレノアは涙を流しながらも顔を上げる。

「必ず戻って来る。だからそれまでは離婚を待って欲しい」

 エレノアの涙を拭おうとイザークが手を伸ばすと、エレノアはびくりと身体を震わせてしまった。

「あ……」
「……君が待っていてくれると思うと、頑張れる。良いかな?」
「はい……」

 エレノアが弁解しようとするも、イザークは困ったように微笑んで、伸ばした手を引っ込めた。優しく語りかけるイザークに、エレノアも返事をするしか出来なかった。

(二年前の魔物討伐も、騎士団の被害は凄まじかった。……ザーク様……)

「すまない、今だけ……」

 遠慮がちにエレノアの左手を取ったイザークは、エレノアの薬指にするりと何かを通した。

「ミモザの形の指輪……?」

 ミモザに象られた銀色の指輪には、中央に空色の宝石が埋まっている。サファイアだ。

「俺が帰ってくるまでで良い。どうか付けていてくれないか?」

 懇願するイザークの表情は何度も見てきた。でも、今は本当に彼が泣き出してしまいそうで。

「はい」
「……ありがとう」

 エレノアの返事に、彼はホッとしたような笑顔でお礼を言った。

 そして、エレノアをしばらく見つめたあと、静かに部屋を退出して行った。

 エレノアは何も言えず、ただイザークを見送った。
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