親父へ…
 ある穏やかな日曜、ひとり散歩をしていたところ、近くの公園では、中学生ぐらいの少年と、父親と思われる男性が、キャッチボールをしていた。
 更に、釣り堀を見遣ると、30才ぐらいの男性と、老境に差し掛かったおじいさんが一緒に釣りをしていて、若いほうの男性が、
「父さん」
と声をかけていたことから、二人が親子だと判った。
 実に微笑ましい光景なのに、僕はいつも、そんな父と息子を見る度に、今でも古傷が疼く。
 僕は、大学を卒業して3年になる。
 もういい大人だが、今もあの日、父に投げつけた言葉を忘れらないまま…。
 早くに母を亡くしているので、父は男手ひとつで僕を育ててくれた。
 子供の頃は、仲良し親子だったと思う。
 しかし、成長するにつれ、父とは意見の食い違いも生じてきて、僕自身も、黙って言うことを聞いているだけの、素直な子供時代も終わりを迎えていた。
 いつからか、僕はしばしば、父に歪んだ言葉を投げつけるようにもなり、あの雨の夜もそうだった。
「うるせえよ!俺は、アンタのペットじゃねえんだ!」
 そう怒鳴り付け、冷たい雨の降り頻る中、僕は家を飛び出した。
 ファストフード店で時間を潰し、真夜中の2時になると、渋々、帰宅することに。
 父はもう、とっくに眠っている頃だと思ったから。
 黙ってドアを開けたが、
(あれ…?)
 何とも言えない違和感があった。
 もう、真夜中なのに、リビングは電気がついたままだ。
「親父?」
 声をかけてみたが、反応がない。
 父の寝室のドアをノックしても、やはり反応がないので、
「開けるよ?」
 そう言ってドアを開けたものの、こんな時間なのに、父は居ない。
 家中探しても、何処にも居ない…何となく、嫌な予感がした。
 しかし、こんなことで通報していいのか判らず、1時間だけ待つことに。
 あまりにも長すぎる1時間が過ぎたものの、まだ父は戻らないので、通報すると、先方からは、すぐに折り返すと言われた。
 そわそわと落ち着かない気分で、電話を待っていると、病院から電話がかかってきた。
 その電話を受け、僕は底のない深い闇に突き落とされることに…。
 父は、きっと僕のことを探していたのだろう。
 真夜中、どしゃ降りの中を歩いていたとのことだが、信号機のない交差点で、大型トラックに轢かれたという…。
 大雨で、ドライバーにとっても視界が悪かったことぐらいは、想像に難くない。
 ガタイのいいドライバーは、人目も憚らすに慟哭しながら詫びてきたが、僕には返す言葉が見つからない。
 あの夜、僕はドライバーに何と声をかけたかも、もう忘れてしまった。
 忘れられないのは、僕が最後に親父に投げつけた暴言のほうだ。
 あんな暴言は、もはや日常茶飯事だったが「父親とうまくいっていない」などと言いながらも、結局は、特に仲直りしなくても、また普通に話せるようになった。
 それは当たり前ことので、これからもずっとそうだと思っていた…。
 もし、僕があんな言葉を投げつけて出ていかなければ、今も親父は此処に居ただろうか?
 または、親父の死が避けられない運命だとしたら、決してあんな言葉を投げつけることなどしなかった…どんなに悔やもうとも、後の祭りでしかないが。
 僕の最後の言葉は暴言だったが、親父の最期の言葉は何だったのだろう。
 誰か、教えてくれないか…?



The End
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