コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
***

「このラフ、イマイチだね。今日中にやり直して。」
クリエイティブのフロアで水惟の先輩デザイナーの乾 吉乃(いぬい よしの)が言った。

「えっと…具体的な修正箇所の指示ってありますか?」

水惟の質問に、乾の目が一瞬苛立ちを見せる。
「そのくらい自分で考えなさいよ。洸さんが抜けた穴を埋めなきゃいけないってわかってる?私は洸さんみたいに甘やかす気ないから。」

「はい。すみません。」
水惟は戻されたラフを手に、席に戻った。



———はぁ…

昼休み、水惟は会社近くのカフェにいた。
社内の食堂やカフェは注目を集めてしまうようになり、昼休みを過ごすには居心地が悪くなっていた。

この日はあまり食欲もなく、水惟はサラダだけを食べていた。

「あ、水惟。隣いい?」
そう声をかけてきたのは氷見だった。

「乾と揉めてたみたいだけど大丈夫?」
「…あぁ、揉めてたってほどじゃないので…」

「洸さんが水惟のこと甘やかしてたわけじゃないんだけど、乾って洸さんの信者みたいなところがあるから…洸さんに可愛がられてた水惟のことがずっと羨ましかったんだと思うの。」

「…そうだったんですか…。」
水惟は洸のことが懐かしく思えた。

「もしも乾とトラブルになりそうだったら言ってね。」
「はい。」
< 128 / 214 >

この作品をシェア

pagetop