コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
その日、蒼士は久しぶりに洸と二人でいつものバーにいた。

「そうか…氷見ちゃんからときどき聞いてはいたけど、そんな状況かー思ったより荒れてんなぁ…乾は気ぃ強いタイプだからなー…」
洸がウィスキーのグラスを片手に苦笑いで言った。

「氷見さんが言ってることは正しいんだ。乾さんがしたことなんてこの業界ではよくあることで、水惟自身が文句言うなりしなくちゃいけない…」

「しないよなー水惟は。そういうところが良くも悪くも深端っぽくないもんな。水惟らしいっつーか…」
「水惟らしい、か…」

蒼士は結婚してからこれまでのことを思い返してみた。
(水惟らしい水惟…)

水惟の性格は真面目で一生懸命、クールそうに見えて好きな食べ物や好きな物の前では表情がわかりやすく明るくなるような素直さがある。
他人を傷つけるようなことは言わないし、自己主張の強いタイプではないが、聞いてみればどんなことにも自分なりの意見は必ず持っている。
嫌いなことを態度には出さないが、物事の好き嫌いは案外ハッキリしている。

(他人と話すのは嫌いじゃないけど、初対面の人間には緊張してしまう…)

(デザインした作品を通して褒められるのは喜ぶけど、自分自身が人前に出て目立つことは嫌がる…)

(なのに結婚してからは…)

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