コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
水惟がホテルを出ると、辺りはもうすっかり暗くなっていた。

「あれ?水惟?」

誰かが声をかけてきた。

「…アッシー…」

「まだ帰ってなかったんだ?」
「…うん、ちょっとトラブルで…アッシーは…」

「飽きたから帰ろうかなって思って。」
「そっか…」

「めちゃくちゃ元気ないじゃん。」
啓介は水惟の声が力の無いものだとすぐに気づいた。

「水惟が帰るって出て行った後、深山さんもすぐに追いかけて行ってたけど…」
蒼士の名前に、水惟の肩が小さくビクッと反応する。

「なんかあったんだ。」
「………」

「さっきまであんなに好き好きオーラ出して深山さんのこと見てたのに。」
「…え…」

「バレバレ。」
(………)
水惟は小さく溜息を()いた。

「…ふられちゃった…」

「え…マジ!?」
啓介の意外そうな反応に力無く笑う。

「私のことは…大きな広告賞を獲ったデザイナーとしてしか見てなかったみたい。ただの仕事相手ってこと。」
「んー…そんな感じじゃなかったけどな〜」
啓介は不思議そうに眉を顰めて首を傾げる。

「…でも…私とは…」
水惟は言葉を詰まらせた。

「もう…恋愛する気無いって…」
堪えていた涙が目から溢れて、水惟は泣き出した。

啓介は泣いている水惟をじっとみつめた。

「でも…当たり前だよね、もう別れてるんだから…」
「…ふーん…じゃあさ」

———グイッ

啓介が水惟を抱き寄せた。
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